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【識者の眼】「9月は卵巣がんと子宮体がんの啓発月間です」柴田綾子

No.5134 (2022年09月17日発行) P.61

柴田綾子 (淀川キリスト教病院産婦人科医長)

登録日: 2022-09-06

最終更新日: 2022-09-06

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9月は、前立腺がん、悪性リンパ腫、子宮体がん、卵巣がん、小児がん、白血病、甲状腺がんの啓発月間です。この機会に、卵巣がんと子宮体がんを疑う症状について、ぜひ女性患者さんとお話をしてください。

1. 閉経前後の不正出血では子宮体がんを疑う

子宮体がんは1年間で1.7万人が罹患し(2018年)、2600人が亡くなっています(2020年)。発症の多くは、50〜60代で「閉経前後の不正出血」が1番の症状です。リスク因子として注意が必要なのは、肥満、糖尿病、未経妊、多嚢胞性卵巣症候群、乳がん治療等でタモキシフェン内服中の方です。現時点では、無症状の人を対象にした有効な子宮体がんの検診やスクリーニング検査はありません。そのため不正出血(月経ではない時期に性器出血があるとき)や経腟エコーで子宮内膜が厚いときは、産婦人科で子宮体がん検査を施行しています。検査では、内診台で腟から子宮内に細いチューブを挿入して細胞を採取します。

近年、早期の子宮体がん手術で腹腔鏡手術やロボット支援下手術が保険適用になり、傷が小さく手術ができるようになってきました。閉経前後の不正出血では、産婦人科の受診を推奨してください。

2. 急な腹部膨満、腹囲増大は卵巣がんを疑う

卵巣がんは1年間で1.3万人が罹患し(2018年)、4900人が亡くなっています(2020年)。子宮頸がんや子宮体がんより死亡者数が多いのは、卵巣がんの初期は無症状のことが多く、早期発見が難しいことが原因のひとつです(5年生存率60%)。

発症の多くは40代後半〜60代で「腹部膨満、腹囲の増大、食欲低下、頻尿」などの症状があります。現時点では、無症状の人に対する有効な検診やスクリーニング検査はありません。症状がある方や遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)を疑う方に対して、経腟エコーで卵巣の腫れを検査しています。日本の卵巣がんにおいてはBRCA1/2遺伝子に変化のあるHBOCの割合が10〜15%存在し、以下のような方では注意が必要です。

〈HBOCを疑う方の例〉
・血縁者にHBOC患者(BRCA1/2遺伝子に変化あり)の方がいる
・45歳以下で乳がんを発症
・両側乳房の乳がん

HBOCを強く疑う方では、BRCA1/2遺伝子に関する遺伝子検査が保険適用(3割負担で約6万円)で受けられる可能性があります。BRCA1/2遺伝子に変化を認めた場合、生涯に卵巣がんを発症するリスクは20〜60%と一般の方(1.6%)に比べて非常に高くなります。そのため、2020年より予防的に卵巣と卵管を腹腔鏡手術で切除することが保険適用になりました。

家族歴や病歴からHBOCを疑う方がいらした場合、遺伝子カウンセリングを提供している医療機関へご紹介ください。

*啓発活動に使用に使われるシンボルカラーは、子宮体がんが桃色、卵巣がんが青緑色となっています。

【文献】

▶一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構:遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)をご理解いただくために. 
https://johboc.jp/wp/wp-content/uploads/2022/02/hboc_ver_2022_1.pdf

▶オンコロ:様々ながん疾患啓発カラーと啓発月間.
https://oncolo.jp/blog/keihatsu00

柴田綾子(淀川キリスト教病院産婦人科医長)[婦人科がん]

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