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【識者の眼】「コロナ第7波─4学会合同声明の経緯」草場鉄周

No.5132 (2022年09月03日発行) P.56

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2022-08-22

最終更新日: 2022-08-22

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8月2日、厚労省にて日本プライマリ・ケア連合学会、日本感染症学会、日本救急医学会、日本臨床救急医学会の4学会が合同で〈限りある医療資源を有効活用するための医療機関受診及び救急車利用に関する4学会声明〉を発表した。この声明が生まれたきっかけは、逼迫する救急の現場で苦悩する知り合いの救急医から私へのFacebookメッセージだった。コロナ感染の軽症でも不安で救急車要請する住民が増えたため、真に救急対応を要する患者の救急対応が遅延するリスクが急激に高まり、救える命が救えなくなりつつあることへの危機感。一人の医師としての呼びかけに限界があり、学会合同で声明が出せないかという相談であった。

7月25日に届いたメッセージをふまえて発熱外来を担うプライマリ・ケア診療所の状況を確認すると、救急の現場と同じく、日々殺到する数十人の患者に対応しきれず、疲弊しつつある厳しい診療環境が明らかになった。そうなると、医療機関受診と救急車利用の両者に対する適正利用を呼びかけるしかない。当学会から日本救急医学会に相談をすると、ちょうど危機感の高まる厚労省の担当者ともつながった。さらに、この2年間コロナ対応で連携してきた日本感染症学会のアドバイスが必要と判断。救急では現場により近い日本臨床救急医学会も加わった。この4学会、いわゆる臓器横断で多様な健康問題に対処するという共通点がある。7月29日に厚労省のお膳立てで4学会の代表者がWeb会議で集い、問題点を整理し、翌週半ばの声明発信で合意した。週末にそれぞれの学会が担当領域の文言を急ピッチで作成することとなった。8月1日の夜のWeb会議で文言を統合し、草案を作成。現場の厳しさをふまえ、前倒しで8月2日に厚労省記者会で記者会見を実施することに決定。深夜まで文言の検討を重ね、8月2日16:30の記者会見の直前まで文章の校正を断続的に行い、ぎりぎりで発表にこぎ着けた。

学会連携での急ピッチの作業は実に珍しく、当学会としても得がたい経験を積むことができた。行政が医療的判断を法的根拠なく打ち出すことのハードルの高さを考えると、フットワークが軽く現場に近い学会が迅速に国民や医療者に呼びかける意義は大きいだろう。今後もこの経験を活かしていきたい。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]

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