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【識者の眼】「ハイリスクグループに絞った天然痘ワクチン接種の必要性」岡本悦司

No.5129 (2022年08月13日発行) P.58

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)

登録日: 2022-08-02

最終更新日: 2022-08-02

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「WHOサル痘を公衆衛生危機(PHEIC)と宣言」「国内でも感染確認」「サル痘予防に天然痘ワクチン承認」といった報に接して、私は思わず袖をまくりあげた。加齢でだいぶ薄れてはいるが「それ」は今でもはっきり確認できる。「それ」とは種痘の瘢痕だ。天然痘は既に根絶されており、わが国でも1975年度生まれ(現在47歳)以降は義務的な種痘接種は行われなくなった。そんな「過去の遺物」ともいうべき天然痘ワクチンがサル痘の世界的流行によって再び脚光を浴びている。サル痘も天然痘も同種ウイルス(オルソポックスウイルス)だから、種痘接種者はサル痘に対してもある程度の免疫を有している。

サル痘はヒトからヒトへの空気感染もあるとのことで、性行為感染症(STD)には分類されてはいない。しかしながら、今年5月からの世界的流行での感染者は大半が男性同(両)性愛者であり、サル痘は事実上STDとして扱うべきであろう。LGBT(性的マイノリティ)が市民権を得ている現在、免疫を持たず性的活動性の高い若い世代を中心に、わが国においても今後爆発的に拡大することが懸念される。

天然痘ワクチンはリスクの高い医療従事者を保護するため優先的に接種される予定で、新型コロナワクチンのように全国民に推奨されるのではない。とはいえ、ハイリスクグループが特定される以上、拡大防止にはこれら集団に的を絞った接種も有効であり必要であろう。ニューヨーク市やサンフランシスコ市は、市民への集団ワクチン接種を行っている。天然痘は根絶されたとはいえ、バイオテロに用いられる恐れもあるため、米軍は兵士に集団接種を行っており相当量の備蓄も有している。それでも一般市民向けの接種によって供給不足であるという。限られたワクチンを有効に接種するためにも対象をどのように絞るかが知恵の働かせどころである。

わが国においても、ハイリスク者の集中する地域やコミュニティを通じて、対象を絞った市民向けの接種を進めることが求められる。

岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)[サル痘]

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