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咽頭炎様病態でcentor score 3点以上であれば抗菌薬を投与してもよい?
【溶連菌迅速検査が困難な場合の対応】

No.4797 (2016年04月02日発行) P.61

國島広之 (聖マリアンナ医科大学内科学総合診療内科 准教授)

登録日: 2016-04-02

最終更新日: 2016-10-06

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【Q】

成人において38℃以上の発熱と片側口蓋扁桃に滲出物を認め,咳や前頸部のリンパ節腫脹がない場合,咽頭炎(扁桃炎)の診断になると考えます。centor scoreに基づき,可能であればA群β溶連菌の検査が望ましいと考えますが,一般外来では施行困難な場合があります。このようにcentor score 3点で迅速診断ができない症例に,やむをえず,起因菌として溶連菌,黄色ブドウ球菌,肺炎球菌などを想起し,ペニシリン系薬を5日間投与(投与期間は抗菌薬起因性腸炎の発症を考慮)する治療方針は適切でしょうか。また,centor score 4点でも,A群β溶連菌が検出されるのは約50%とする報告がありますが,4点で検査陰性の場合,処方はウイルス性と考え対症療法,細菌性と考え抗菌薬投与のいずれでしょうか。さらに,A群β溶連菌感染症が家族内感染するとの報告がありますが,どのような伝播形式が考えられますか。 (神奈川県 O)

【A】

近年における検討では,溶連菌感染症は,成人でもcentor scoreに応じて多くみられると報告されていることから(文献1),特にインフルエンザの流行期などで発熱性疾患が多い時期では,鑑別診断の1つとして重要です。もし迅速診断検査が困難であるとすれば,centor scoreの基準で3点の場合,4割程度で溶連菌感染症が考慮されると思いますので,基本的には抗菌薬の投与が勧められると思います。
centor scoreが4点で検査陰性の場合は,溶連菌感染症における偽陰性,もしくは,肺炎球菌,黄色ブドウ球菌,インフルエンザ菌などを考慮して抗菌薬を投与してよいと考えます。ただし,扁桃周囲膿瘍ではPrevotella spp.やFusobacterium spp.などの嫌気性菌が多くみられますので(文献2),β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬,クリンダマイシン,もしくは抗嫌気性菌活性を有するキノロン系薬が選択肢となります。
成人の溶連菌性咽頭炎において,有病率が小児より少ないリウマチ熱などの予防効果について確認することは困難であるものの(文献3),溶連菌感染症におけるペニシリン系薬の投与期間は,除菌や再燃の防止を主たる目的としていると思いますので,10日以上の服薬が望まれます。あらかじめ,長期間投与の目的と,軟便になることを患者に伝えると服薬コンプライアンスの向上が期待できます。再燃を繰り返す例では,セフェム系薬の投与を行ってもよいかもしれません(文献4)。
マクロライド系薬は溶連菌で耐性株が多いのが現状です。加えて,centor scoreおよび同様の症状では,エプスタイン・バー(Epstein Barr:EB)ウイルスによる伝染性単核球症との鑑別ができません。伝染性単核球症では,アモキシシリンの投与により3割程度で発疹をきたし(文献5),ごく初期では肝機能異常や異形リンパ球に乏しいこともあることから,丁寧な評価が必要です。
溶連菌感染症は,家庭・施設・地域などでの集団感染事例が報告されています。主たる感染経路は,飛沫および接触感染ですので,手指衛生の励行が重要と思います。また,稀ではあるものの食材の溶連菌汚染による食中毒事例が報告されていますので(文献6),発症時期や罹患者の広がりなどによっては考慮する必要があります。

【文献】


1) Fine AM, et al:Arch Intern Med. 2012;172(11):847-52.
2) Suzuki K, et al:J Infect Chemother. 2015;21(7):483-91.
3) Iglesias-Gamarra A, et al:Am J Med Sci. 2001;321(3):173-7.
4) van Driel ML, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2013;30:4:CD004406.
5) Chovel-Sella A, et al:Pediatrics. 2013;131(5):e1424-7.
6) Okamoto F, et al:Jpn J Infect Dis. 2014;67(4):321-2.

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