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【識者の眼】「コロナ禍の自殺増から考える社会のあり方」小倉和也

No.5112 (2022年04月16日発行) P.61

小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2022-04-06

最終更新日: 2022-04-06

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超過死亡についての論文が話題になっている1)。日本をはじめ各国の新型コロナによる死亡数が実際には公表より多い可能性を指摘しているが、記述の中で目を引いたのは、コロナ禍で自殺死亡が増加したのは日本ただ一国であったという指摘だ。

自殺の増加とその理由の変化も、コロナ対策の重要なアウトカム指標であると同時に、コロナ禍以前からの社会課題を浮き彫りにする重大な警告であると言える。家庭医としても地域共生社会の実現をめざす団体の代表としても、コロナ対策と今後のより良い社会のあり方に結びつけることが責務であると感じている。

別の論文2)は、コロナ禍で女性の自殺数の増加が顕著であった点と、男女別の自殺原因の違いに注目している。女性ではすべての原因において増加し、男性では仕事に関連した原因での自殺が目立って増加している。その原因として、日本では男女の収入格差がいまだに25%以上あること、男性が経済面で家計を支え、子育てや家族の世話は女性が主に担っていることなどを挙げている。

メンタルケアの充実や収入格差に合わせた経済的支援といった、当面の対策も重要であろう。しかし、それ以上に男女間に限らない経済的・社会的格差の是正や、背景にある制度的・文化的・社会的要因の改善についても早急に取り組む必要があると考える。

特にジェンダーや子育ての社会化の問題は、改革のための意思決定自体に女性が参画しづらい現状を考えると、大胆な手法が必要であろう。議会におけるクオータ制などはまさにこのためにあると思われ、各国での実績も踏まえると地域共生社会の実現のためには適切な形での導入が不可欠であると考える。

日本の従来からの自殺数の多さと、コロナ禍で唯一突出した増加を見せたことは、われわれの社会がいかに人を追い詰めやすいかを如実に示している。医療の現場でも、災害がいわゆる社会的弱者により強い影響を与えることを目の当たりにしてきた。コロナという災害の経験を、応急処置だけに終わらせず、社会のあり方を根本的に見直し、実際に改善していくための機会としなければならない。

【文献】

1)Estimating excess mortality due to the COVID-19 pandemic:a systematic analysis of COVID-19-related mortality, 2020–21.

   https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S0140-6736%2821%2902796-3

2)Reasons for Suicide During the COVID-19 Pandemic in Japan.

   https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2788496

小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[新型コロナウイルス感染症][自殺]

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