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【識者の眼】「高額な補完代替療法を使い続ける患者の心理」大野 智

No.5107 (2022年03月12日発行) P.59

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2022-03-03

最終更新日: 2022-03-03

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「患者は、高額な補完代替療法をなぜ続けるのか?」

ある医師から、このような質問を受けたことがある。患者個人によって、様々な背景や理由があるとは思うが、多くのケースで共通している原因について考えてみる。

■強制か? 任意か?

別の医師からは「抗がん剤は『副作用がきつい』と言って休薬を希望してくるのに、補完代替療法は使い続けているのはなぜか?」という質問を受けたこともある。これは「抗がん剤は医師から命ぜられて行っているもの」「補完代替療法は自らの意思で行っているもの」という違いがあるかもしれない。例えば「宿題のように強制されるとやる気が削がれるが、興味のあることには時間を忘れて没頭してしまう」といった経験は、読者の先生の中にもあるのではないだろうか? 診療現場ではインフォームドコンセントのもと患者は同意書に署名をした上で治療を行っているだろうが、それが形式化・形骸化したものになっていないか、今一度、振り返ってみてもよいかもしれない。

■認知的不協和

人が自身の認知とは別の矛盾する認知を抱えた状態、また、そのときに覚える不快感を表す社会心理学用語である。そして人はこの不快感を解消するために、矛盾する認知の定義を変更したり、あるいは自身の態度や行動を変更するとされる。

補完代替療法は健康保険の適用外であり、実施にかかる費用は全額自己負担である。例えば、健康食品に50万円を使って1カ月が過ぎたときの患者の心理を考えてみる。効果を期待して健康食品に50万円を使ったのに体調に少しも変化が感じられなかったとしたら、多くの場合、認知的不協和が生じるであろう。しかし、「50万円を健康食品に使った」という過去の事実は変えられないので、「健康食品を使っているから今の体調でいられるのだ」と考え方を変えることで不快感を解消しようとする。そのようなことが続けば続くほど、後に引けなくなり健康食品を使い続けることになる。つまり、患者としては、止めたくても、止められないような心理状態かもしれない。

補完代替療法に関する医師と患者とのコミュニケーションには、心理学・行動学などの知識もふまえて、丁寧な対応が求められると筆者は考える。

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法

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