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【識者の眼】「消えゆく用語ヒステリー」上田 諭

No.5103 (2022年02月12日発行) P.60

上田 諭 (戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)

登録日: 2022-01-27

最終更新日: 2022-01-27

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ヒステリーという用語を聞いて、「女性がキーッてなったりするやつ」としか理解しない臨床心理士が最近少なからずいるという。その戸惑いをある臨床心理士が書いていた(山崎孝明『精神分析の歩き方』、2021)。ヒステリーとはもちろん、心因性に生じる身体症状やその性格傾向のことを言う古くからある医学、心理学の用語である。若い医師ならいざ知らず、「心」の専門家である臨床心理士がそれを知らないとは、ありえないような話だ。

確かに、精神科でもヒステリーという用語は近年ほとんど使われなくなり、代わりに身体症状症や解離症と呼ばれるようになった。何らかの心理的葛藤によって、運動や知覚・感覚に異常を生じたり、健忘や二重人格(解離性同一症)、意識障害かと思わせる昏迷などが生じたりすることを指す。強い心理的要因にさらされた後に、脚が動かない、声が出ない、疼痛が続く、別人のようになる、動くことも話すこともなくなる、などの症状が出ることである。また、ヒステリー性性格という言い方もあり、「常に皆の中心にいて注目されていないと気がすまない」障害に近いと記述されている(『南山堂 医学大辞典』19版、2006)。近年は、これを演技性(または自己愛性)パーソナリティ障害と呼んで精神障害の一症状とみる傾向がある。

精神科臨床においては、四肢運動の障害や意識の変容状態が、あらゆる身体検索でも原因がみつからず、「心」が原因だと考えざるをえない例がある。ヒステリーである。治療は簡単にはいかないことも多い。

ところが一方で、「ヒステリーなどない」と言う脳神経内科医師たちがいる。通常の精査で異常所見のみつからない身体症状であっても、自己免疫疾患など必ず何らかの身体的原因が隠れているとする立場だ。数年前の学会では、ステロイド治療などの著効例が報告された。

ヒステリーは消えゆく用語に違いないが、精神科でも身体科でも興味深いテーマのままである。 

上田 諭(戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)〔身体症状に対する医療〕

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