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特集:厄介な花粉症の治療戦略―合併症と重症例の対応・コツと落とし穴

No.5101 (2022年01月29日発行) P.22

太田伸男 (東北医科薬科大学医学部耳鼻咽喉科教授/東北医科薬科大学病院アレルギーセンターセンター長)

登録日: 2022-01-28

最終更新日: 2022-01-27

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1988年山形大学医学部卒業。1996年米国国立衛生研究所留学。2016年東北医科薬科大学医学部耳鼻咽喉科教授。2019年より現職。

1 重症・最重症の花粉症とは何か?
①花粉症は発作性,反復性のくしゃみ,水様性鼻汁,鼻閉を三主徴とする。
②鼻閉が非常に強く,口呼吸が1日のうちかなりの時間にある場合が重症,完全に詰まっている状態が最重症となる。
③1日平均のくしゃみ発作や鼻かみ回数が11~20回の場合が重症,21回以上が最重症となる。

2 重症・最重症の花粉症への薬物治療
①くしゃみ・鼻漏型では,鼻噴霧用ステロイドと第2世代抗ヒスタミン薬を併用する。
②鼻閉型または鼻閉を主とする充全型では,鼻噴霧用ステロイドと抗ロイコトリエン受容体拮抗薬あるいは抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬と第2世代抗ヒスタミン薬の併用,もしくは鼻噴霧用ステロイドと第2世代抗ヒスタミン薬・血管収縮薬配合剤を併用する。
③花粉症の治療戦略においては初期療法が重要である。
④薬物は,患者の重症度と病型に応じて選択する。

3 花粉症への免疫療法
スギ花粉症の重症度や病型にかかわらず,施行可能である。舌下免疫療法の成功には,アドヒアランスが鍵であり,副反応予防のための患者指導が重要である。

4 重症・最重症の花粉症への抗IgE抗体療法
くしゃみ・鼻漏型,鼻閉型または鼻閉を主とする充全型のスギ花粉症に対して適応がある。最適使用推進ガイドラインに則り,使用する。

5 花粉症に対する手術療法
鼻閉型で保存的治療に抵抗性であり鼻腔形態異常を伴う症例では,手術療法も考慮する。

6 花粉症の合併症とその対応
アレルギー性結膜炎,気管支喘息および慢性副鼻腔炎が主な合併症である。アレルギー性鼻炎が気管支喘息の増悪および遷延化に関与すると報告されており,喘息治療を含めた気道炎症の制御をねらった総合的な治療戦略を考えることが重要である。

7 予後
重症・最重症の花粉症はQOLを著しく低下させるが,適切な対応によってその低下を防止することができる。一方,不適切な対応によって日常生活の支障度が高まり,労働生産性に影響を及ぼす可能性がある。

伝えたいこと…
花粉症全体の患者数は増加傾向で,その有病率は42.5%となっている。特にスギ花粉症の増加が著しく,有病率は38.8%である。治療には抗原除去,回避が基本であるが,薬物治療,アレルゲン免疫療法,抗IgE抗体療法,手術などがあり,症状(重症度)や病型および社会的背景によって治療法を選択することになる。例年,強い症状を示す症例では,初期治療を行う。また,予測される花粉飛散量と最も症状が強い時期の重症度,病型に合わせた治療法を選択することが重要である。

1 花粉症の疫学

花粉症は発作性,反復性にみられるくしゃみ,水様性鼻汁,鼻閉を三主徴とする鼻粘膜のⅠ型アレルギーである。わが国におけるスギ花粉症の有病率は38.8%と増加しており,若年発症が多くかつ自然寛解率が低いため,社会問題となっている1)。スギ花粉症では,鼻眼の症状だけでなく,睡眠障害や労働生産性の低下も指摘されており,疾患の長期経過を見据えた治療戦略を立てる必要があり,症状を抑制するだけでなく患者のQOLの向上を重視した治療法の選択が重要である。

2 花粉症がQOLに及ぼす影響

近年,アレルギー性鼻炎全体の患者数は国民の49.2%までに急増している。特にスギ花粉症は発症の低年齢化と自然寛解率の低さのため,その患者数の増加は社会問題となっている。患者は10代からいわゆる働き盛りの世代に多く,くしゃみ,鼻汁,鼻閉などの鼻眼の症状だけではなく,倦怠,集中力の低下など日中のパフォーマンスを含めたQOLが低下し,労働・学業に及ぼす影響が大きいことが問題である。また,花粉症の原因となる花粉はスギ以外にも多く存在し,時期と地域によってはスギと同様に強い症状を呈し,日常生活の障害となっている。

スギ花粉症患者では,花粉飛散量の増加に伴い,水っぱな(水様性鼻汁),くしゃみ,鼻づまり,鼻のかゆみ,目のかゆみ,涙目のすべての症状が増悪するだけでなく,日常生活や野外活動,社会生活や睡眠などのQOLが大きく低下する。さらに,近年スギ花粉症と睡眠障害についても関心が高まっている。

花粉飛散初期には,健常人とスギ花粉症患者で睡眠の状態に明らかな差は認められないが,花粉飛散ピーク時期では,スギ花粉症患者では睡眠スコアが有意に悪化している可能性が示唆された。睡眠の内容の中で,特に睡眠の質,入眠時間,睡眠困難および日中覚醒困難のスコアの有意な悪化が認められた。これは,スギ花粉飛散量の増加に伴って睡眠障害のスコアが悪化し,睡眠が著しく障害されている可能性を示唆するものと思われる。アレルギー性鼻炎の睡眠障害に関する検討でも,鼻症状の悪化が明らかに睡眠を障害し,症状の中では特に鼻閉が大きく関与していると報告されている。

スギ花粉飛散量の増加に伴ってスギ花粉症患者の鼻および眼の症状が増悪し,QOLが低下するだけでなく,睡眠も障害される実態があると考えられる。睡眠障害は,インペアード・パフォーマンス(認知能障害)を含めた日常生活に支障をきたす一因と考えられる。スギ花粉症患者の治療に対する満足度は高くなく,患者の満足度を高めるためには鼻眼の症状を抑制するだけでなく,夜間睡眠や日常生活のQOLを低下させない工夫が必要であると考えられる。したがって,スギ花粉症患者の治療にあたっては,重症度に応じた薬剤選択を行うと同時に,QOLと睡眠障害も念頭に置いた治療戦略を考えることが重要である。

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