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腸チフス[私の治療]

No.5099 (2022年01月15日発行) P.46

大西健児 (鈴鹿医療科学大学看護学部教授)

登録日: 2022-01-15

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  • チフス菌(Salmonella enterica subspecies enterica serovar Typhi, 略してSalmonella serovar TyphiあるいはSalmonella Typhi)の感染症である。腸管感染症に分類されているが,菌血症を起こし,また腸管以外の組織や器官に病巣を形成することがある。感染経路は経口で,チフス菌で汚染された飲食物が原因の場合が多い。

    発熱を主症状とし,多くは発症後にしだいに下痢となるが,便秘を呈する症例もある。腹部膨満が出現し,重症例では発熱出現後3週目頃に腸出血がみられ,さらにより重症例では腸穿孔をきたすことがある。抗菌薬による治療を受けなかった場合,発熱は3~4週間続く症例が多い。一般的に潜伏期間は1~3週間とされている。

    日本国内でも感染するが,散発例は海外の開発途上国(特にアジア地域)で感染した症例が多い。腸チフスは類縁疾患のパラチフスとともに,3類感染症に指定されている。本症の患者および無症状病原体保有者を診断した医師や,腸チフスによるあるいはそれが疑われる死体を検案した医師には,直ちに最寄りの保健所へ届け出る義務が課されている。わが国では年間30~40例の届け出が行われている。

    ▶診断のポイント

    感染者から得た材料(検体)からチフス菌を分離して診断する。検体として,通常は血液と便が用いられる。発症初期は血液が検査材料として優れており,病日が進行するに従い便からの検出率が増加する。

    パラチフスとは臨床的に区別しがたく,細菌学的に鑑別する。腸チフスやパラチフスでは血液検査で,血清AST,ALT,LDH値の上昇を認める症例が多い。マラリア,デング熱,レプトスピラ症,急性ウイルス肝炎も発熱がみられ,血清AST,ALT,LDH値の上昇を伴うことが多く,流行地域が腸チフスやパラチフスのそれと重なることから,マラリア,デング熱,レプトスピラ症,急性ウイルス肝炎との鑑別も必要である。

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