株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「外来診断訴訟の高リスク:脳梗塞のミミック疾患」徳田安春

No.5093 (2021年12月04日発行) P.64

徳田安春 (群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)

登録日: 2021-11-23

最終更新日: 2021-11-22

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

今回は脳梗塞ミミック疾患群を取り上げる。実際、脳梗塞の見逃しより、このミミックに騙されることのほうが多い。t-PAなどの血栓溶解療法や抗血小板療法などが行われてしまうことにより、不要な治療で副作用を発症するケースもある。

神経画像診断が発達したおかげで、脳血管障害の迅速で正確な診断が行われるようになったが、それでもミミックに騙されることがある。もちろん患者さんに騙す気はない。ミミックに当たった担当医は運が悪いとも言えるが、ミミック疾患についてよく知っておくことが騙されずに済む予防措置となるので、今回は神経画像診断が発達した環境での最近のデータを示す。

メタ分析によると、脳血管障害と誤診されたミミックケース966人の正しい最終診断で多かったのは、痙攣性疾患、めまい、片頭痛、代謝性脳症の4大疾患であった1)。詳細データをに示す。

実際にt-PA投与がなされてしまったミミック疾患のケースシリーズには、脊髄硬膜外血腫、頸椎椎間板ヘルニアによるBrown-Séquard症候群、頸椎硬膜外膿瘍、陳旧性脳梗塞患者に起こった低血糖症、痙攣性疾患などがあった2)

日本では、日本人に比較的頻度の多いA型大動脈解離で右大脳半球の脳梗塞をきたすことがある。この場合、脳梗塞そのものも存在するが、原因疾患として大動脈解離があることを見逃すと重大な結果をきたすことがある。

一過性脳虚血発作(TIA)の診断を受けて入院した患者230人のうち、誤診率は60%であった3)。TIAでは受診時には既に神経症状が消失していることがほとんどであり、MRIに異常がないのが定義でもあるので、病歴での診断となり、TIAミミックに騙されやすくなる。このうち頻度が多かったのは、痙攣性疾患、末梢性めまい、片頭痛、代謝性脳症の4大ミミック疾患だったが、上記の表と異なる点は、代謝性脳症が最も多かったという点だった。

【文献】

1)Alexander Andrea Tarnutzer, et al:Neurology. 2017;88(15):1468-77.

2)Min Chan Kim, et al:Korean J Neurotrauma. 2018;14(1):20-3.

3)Alireza Sadighi, et al:eNeurologicalSci. 2019;15:100193. 

徳田安春(群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)[診断推論]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top