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【識者の眼】「日本と海外の専門医の違い」渡辺晋一

No.5091 (2021年11月20日発行) P.60

渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2021-10-29

最終更新日: 2021-10-29

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海外の多くの国では医師はGeneral Practitioner(GP)とSpecialist(専門医)に分類され、GPは一般医と訳されるが、家庭医とほぼ同意語として扱われる。さらにGPがゲートキーパーの役割を果たし、専門医を紹介することになっている。英国ではGPがかかりつけ医となり、患者は自由にGPを選べない。

日本の開業医の多くはGPに相当するが、日本ではGPと専門医の保険上の区別がないため、専門外の患者を診療しても、保険請求ができる。その結果、非専門医が診察した患者は、適切な治療を受ける機会が減る可能性があるため、通院回数が増え、結果的にクリニックの収入が上がるという皮肉な結果となることが多い。

日本の専門医は日本医学会に属する各学会が認定しているが、学会によって認定基準が異なる。たとえば日本皮膚科学会が作成するガイドラインは製薬会社の影響が強く、米国や欧州のようにEBMに則したガイドラインでないことが多い1)。そこで学会と独立した専門医機構ができ、世界に通用する専門医を育成することになった。しかし一部の学会は、製薬会社や会員からお金を集める利権団体となっていて、専門医機構に抵抗している。

私が所属する皮膚科学会では、昔は入会しているだけで専門医になれたが、今は学会が行う専門医試験に合格する必要がある。しかし試験内容は想起問題が多く、実際の診断・治療に必須の実践的な問題はきわめて少ない。さらに専門医の更新も学会に参加し、出席点を得るだけでよく、米国のように更新のたびに試験に受かる必要はない。

また日本では、医師免許があれば専門医を自由に選択でき、また変更もできる。しかし海外では専門医数は需要と供給に合わせて決められ、収入も異なる。そのため人気がある科は競争があり、成績順で決まる。一方医療訴訟が多く、また緊急に呼び出される臨床科は人気がなく、米国では成績が振るわない人が、これらの科を選択することが多い。そのためか、海外では、特定の診療科の専門医が不足することはない。

今回のコロナ禍の日本では、入院できず、自宅で死亡する患者が増えたが、これは政府が必要な専門医を養成してこなかったためである。名ばかりの病床を増やすのではなく、世界に通用する専門医を増やし、担い手となった医師や看護師に直接お金を渡さない限り、幽霊病床が減ることはない。

【文献】

1)渡辺晋一:学会では教えてくれないアトピー性皮膚炎の正しい治療法. 2019, 日本医事新報社.

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[専門医制度]

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