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【識者の眼】「ノーベル賞月間雑感─医学は未完の学問」邉見公雄

No.5089 (2021年11月06日発行) P.57

邉見公雄 (全国公私病院連盟会長)

登録日: 2021-10-26

最終更新日: 2021-10-26

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10月はノーベル賞月間。私が連載している「コロナで考えたこと」は次回に延ばし敬意を表すこととした。

今年、日本人としては米国籍の眞鍋淑郎氏が物理学賞を受賞された。CO2が温暖化の原因という公式モデル、地球の危機、COP21などへの理論的裏付けをかなり以前に確立、提唱していたことが評価された。「今でしょ」というタイミングであろう。90歳超とは思えない矍鑠とした態度。母国日本への歯に衣着せぬ忠告。学術会議委員任命を俯瞰的総合的に排除した政府関係者や日本の研究者はどう受け取ったのであろう。聞き流さずに真摯に受け取り、対応してほしいものである。ノーベル賞受賞者の山中、大村、本庶先生達も異口同音に日本の学術研究に対する理解や支援が低いことを指摘している。外圧に弱い国なので今回ばかりは少しは徹えたかも……。

さてタイムリーと言えば、昨年の生理学・医学賞はコロナ禍、COVID-19パンデミックの年に相応しくC型肝炎ウイルス発見などの3名が選ばれた。nonA nonBと言われていたのをCとして発見した方、それが肝癌を惹起、さらにその治療とバトンリレーのような3名であった。そして今年は熱など感じる仕組みを研究した2名の方に。学賞や平和賞もなるほどと唸ってしまう方達であった。受賞された方々も偉大な方だが、選考委員(極秘らしい)も凄いレベルの方達と想像する。学術研究に関わるわが国の政府や文科省のメンバーと比べ月とスッポン?

それはさておき、ノーベル賞の種が尽きないのは医学がまだまだ未完の学問である証拠でもある。故に医療事故も起きやすい。「医」という文字は、私の勝手な解釈では「矢」の傷を医師、薬剤師、看護師が囲って治すという意であると考えている。今は30以上の国家資格の方々により治すので「図1の矢」に。しかしコンプリートサークルの「図2の矢」にはならない。よってノーベル賞も医療事故も続くのであろう。

認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの初代理事長辻本好子さんが「医者にかかる10ケ条」というのを作成した。私も少し関わったのだが、不幸にして亡くなられた辻本さんを継承された山口育子さんが改訂版に「医学は完全な科学ではありません」というのを加えられた。言い訳になるかもしれないが、この認識をすべての人が持たないと医療人は浮かばれない。ノーベル賞の栄誉の報の影で少し考えさせられたことである。

邉見公雄(全国公私病院連盟会長)[ノーベル賞]

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