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【識者の眼】「新たな医薬品産業ビジョン─医薬安全保障が産業政策議論の要」坂巻弘之

No.5088 (2021年10月30日発行) P.61

坂巻弘之 (神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)

登録日: 2021-10-13

最終更新日: 2021-10-13

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厚生労働省の医薬品産業政策の中期ビジョンと位置付けられる「医薬品産業ビジョン(以下、新ビジョン)が8年ぶりに改訂され、9月13日に公表された。新ビジョンの主要4テーマのポイントを抜粋すると以下のようにまとめられる。

・革新的創薬:モダリティ(治療手段)の多様化と研究開発の高度化・困難化等に対して開発のためのエコシステム(連携基盤)の整備、薬価制度の透明性・予見性の確保。

・ジェネリック医薬品:品質管理・製造管理の不備に起因する供給不安等に対して安定供給を確実にすること。

・医薬品流通:供給不安情報の早期把握等の供給問題への対応と市場価格形成等の流通の仕組みの改善。

・経済安全保障:医薬品安定供給、ワクチン、感染症治療薬の開発と生産体制強化と、そのための収益性や予見可能性の確保。

ここで経済安全保障とは、一般に、国の先端技術やデータ流出の防止とともに、生活・生命に関わるインフラ機能の強化やサプライチェーンの強靱化をめざすものと考えられる。特に新型コロナの下で医薬品や生命の経済安全保障の重要性が認識され、「経済財政運営と改革の基本方針2021」でも経済安全保障の対象に医薬品も重点項目として取り上げられている(「健康安全保障」あるいは「医薬安全保障」などともいわれる)。

日本では、薬事承認を受けた医療用医薬品は基本的に医療保険制度の下で使用でき、1万4000品目を超える医薬品が薬価収載されており、安心生活の基盤となっているとの考え方がある。一方で、財務省は5月21日公表の「財政健全化に向けた建議」において新規医薬品と既存医薬品の保険給付範囲・薬価の見直しを提言している。給付範囲や薬価制度が国民生活にどのように影響するのか、経済安全保障との関係について検討すべきである。

ワクチンは薬価収載されないため、ビジネスの予見可能性が低くわが国で開発が遅れている。同じように効果があっても高額となる医療技術が保険制度の下で使用できないことは、創薬力と国民の健康面の安全保障を低下させることが危惧される。しかし、一般用医薬品として購入できるものなど、どこまでの保険での給付が安心社会と関係するのか、経済安全保障の観点からの薬価制度の議論が必要である。

坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価]

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