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【識者の眼】「O型緊急輸血と赤血球製剤の60分ルール」今 明秀

No.5080 (2021年09月04日発行) P.63

今 明秀 (八戸市立市民病院院長)

登録日: 2021-08-24

最終更新日: 2021-08-24

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ドクターヘリで交通事故現場から運ばれてきた女児がERへ着いた。ショックで意識が悪い。まず4mmチューブを気管挿管。橈骨動脈は弱い早い、冷汗あり。超音波検査をすると腹腔内出血あり。輸液を最速にして血圧を測定するが測定不能だ。もう一度超音波検査をすると腹腔内出血増量。「輸液に反応しない腹腔内出血だから開腹手術をするよ。手術室用意して」と私。救急ベッド上で急速加温輸血装置Level 1からO型赤血球輸血が開始された。両親がERに入った。母親の肩を父親が抱いていた。二人とも若い。ナースが数回にわたり経過を説明していたが、私が話すのはこれが最初。「腹部出血、頭部外傷、肺外傷で重症です。命がかかっています。CT検査も出来ていません。手術室の準備を待てません。今からここで手術をします。血液型判定を待つ時間がありません。O型輸血をして命を繋ぎます。必ず救いますから。これまでも、このくらいの怪我の子供を何度も救ってきました。手術時間は30分以内です」。私はまだ若い夫婦の眼をしっかり見た。そして振り返り白いライトで照らされたER2ベッドへ数歩進んだ。

開腹してすぐに、腹部大動脈を指2本で圧迫し大動脈遮断した。観血的動脈圧が30から70まで上がった。出血を一次的に止めてO型輸血が十分入るのを待つ。大きく砕けている肝臓を触れた。指による大動脈遮断を外す。続けて肝十二指腸靭帯を遮断鉗子でクランプした。破裂が小さくなるようにタオルを2方向から入れる。手術時間12分で血圧は100に安定した。血管造影室へ移動し肝臓の動脈塞栓術を行う。血管造影を始めた頃に、血液型を合わせた赤血球が到着した。

厚生労働省医薬・生活衛生局血液対策課「輸血療法の実施に関する指針」(2005年9月〔20年3月一部改正〕)によると、出血性ショックのため患者のABO血液型を判定する時間的余裕がない、緊急時に血液型判定用試薬がない、あるいは血液型判定が困難な場合は、例外的に交差適合試験未実施のO型赤血球濃厚液を使用する。しかしこれに抵抗を示している施設もある。

冷蔵庫より取り出され28℃で1〜3時間曝露され、再び4℃保存された場合、溶血率は0.2%以下である。英国のガイドラインでは30〜60分、温度管理が不十分な状態に置かれた赤血球製剤は専用保冷庫に少なくとも6時間保管してから再出庫する60分ルールがある。以上より緊急輸血用に準備され60分間放置した後でも再使用が可能と考えている。

今 明秀(八戸市立市民病院院長)[救急医療]

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