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【識者の眼】「医師の勤怠管理は難しい?」小林利彦

No.5069 (2021年06月19日発行) P.63

小林利彦 (浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)

登録日: 2021-05-31

最終更新日: 2021-05-31

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2021年5月21日に「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」が可決され成立した。この法案の主たる内容は「医師の働き方改革」に関するものであり、長時間労働の医師の労働時間短縮及び健康確保のための措置の整備等を目的に、勤務する医師が長時間労働となる医療機関は医師労働時間短縮計画を作成することや、地域医療の確保や集中的な研修実施の観点から、やむを得ず高い上限時間を適用する医療機関を都道府県知事が指定する制度の創設、そして、当該医療機関における健康確保措置(面接指導、連続勤務時間制限、勤務間インターバル規制等)の実施手順などを定めている。

本コラムでは、これまで労働時間の上限が年間960時間以内(A水準)、1860時間以内(連携B・B・C-1・C-2水準)といった基準のほか、専門業務型裁量労働制についても言及してきたが、今回の法案成立とともに、実運用に向けた施策等が本年度内に動き出すことは間違いない。とはいえ、医師の勤怠管理が適正に行われるためには、労働時間の計測が客観的になされていることが前提となる。日本病院会のアンケート調査(2019年10月)によれば、医師の労働時間の推計に関して、出勤簿管理で対応している施設が54.8%、自己申告が35.8%、ICカード等ITの活用が28.1%、タイムカードでの対応が24.4%であった(重複回答あり)。なお、タイムカードやICカード等で労働時間管理が行われている施設において、全ての医師の記録・確認がなされているのは49.5%に過ぎず、自己申告の医療機関では申告内容と実態との乖離が33.8%あったとされる。

もともと、医師の労働時間を客観的に把握(計測)するのは困難である。その理由として、実労働時間と休憩時間、自己研鑽時間などの境界が不明瞭であることや、外勤等を含む医療機関からの出入りが頻回であることなどがあげられる。現実的には、タイムカードよりもICカードやICチップを用いた労働時間管理の方が有用だとされているが、施設内に滞在する時間のうち自己研鑽時間をどう評価・判断するのかは難しい。それでも、医療機関の労務管理責任者は、宿日直許可の申請対応等ですら悩ましい状況下、雇用医師の勤怠管理については、ある程度客観的に測定可能な環境を確保すべきであろう。

小林利彦(浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)[医師の働き方改革]

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