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【識者の眼】「地域の未来と日本海ヘルスケアネットの役割③─地域フォーミュラリの導入効果」栗谷義樹

No.5070 (2021年06月26日発行) P.65

栗谷義樹 (山形県酒田市病院機構理事長)

登録日: 2021-05-27

最終更新日: 2021-05-27

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日本海ヘルスケアネットが抱える事業の一つに、地域フォーミュラリ(地域F)がある。地域Fは「医療機関および地域医療における、患者に対し最も有効で経済的な医薬品の使用方針」と定義される。地域Fは増加する国民医療費、厳しい見通しの医療保険財政など、今後の医療財源に貢献できるとともに、連携推進法人設立理念の一つである地域全体の連結費用管理に合致する事業と考え、2018年5月から地区薬剤師会と病院機構薬剤部を中心に検討に入った。地域Fの推奨薬種は、地区薬剤師会と病院薬剤師で構成するF検討会が基準に基づく選定を行い、推奨薬群の素案を作る。これを受けて作成運営委員会が実際の地域Fを策定、最終的に日本海ヘルスケアネット理事会で承認後に運用に入る。2018年11月、2つの生活習慣病薬から開始し、現在、8推奨薬群を運用している。

当地区は調剤情報共有システムの導入により、参加調剤薬局データから各薬剤のシェア分析が可能となっている。地域F導入効果をみると、PPI、ARB、α-GI、スタチン、ビスフォスフォネート製剤、抗ヒスタミン薬の6種は2019・20年の比較で、合計5842万4844円の費用削減効果がみられた。調剤情報共有システムに参加する47調剤薬局で調整すると、北庄内地域での薬剤費減少額は年間約7300万円、地域の院内処方率は約50%で、推奨薬割合が同じと仮定すると年間薬剤費減少額は約1億4000万円となった。

通常、新薬特許が切れ後発薬が発売されると置き換えが進むが、日本では医師や患者が使い慣れた既存薬を使い続けることが多いと言われてきた。米、独は置き換え比率9割、以前の日本は7割台で医療費膨張の一因と言われ、診療報酬改定時の誘導策もその都度措置されてきた。一方、増加する国民医療費に対し、薬価引き下げが大きな役割を果たしてきたが、新薬開発は低分子からバイオ創薬へのシフトなどで、創薬費用は10年前の数倍に高騰している。希少疾患の創薬などは高額薬価でないとコスト回収ができず、海外企業は革新的新薬の日本市場での上市を敬遠する可能性もあり、国内製薬企業も海外へ転出することにもなりかねない。

費用対効果や保険収載の見直しなどは今後進むと思われるが、薬剤使用の標準化と効率化をもたらす地域Fなどにより、安価でも効果が確実なものに財源を振り向ければ、結果的に国内創薬メーカーの開発力増強にも繋がるのではないかと考えている。

栗谷義樹(山形県酒田市病院機構理事長)[地域医療連携推進法人][医薬品の使用方針]

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