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【識者の眼】「ワクチン接種後の生活指針は?」北村明彦

No.5067 (2021年06月05日発行) P.58

北村明彦 (八尾市保健所健康まちづくり科学センター総長)

登録日: 2021-05-24

最終更新日: 2021-05-31

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本年4月より大阪府八尾市の保健行政に奉職した。さっそく大阪における新型コロナウイルス感染症の第4波の大きなうねりの中で、保健所の壮絶な現場に直面している。医療機関からの随時の発生届に加え、濃厚接触者等のPCR検査の結果が一斉に届き、対象者への結果連絡と陽性者への積極的疫学調査、療養場所の相談、宿泊療養の調整へと続き、さらに濃厚接触者への連絡と健康観察の要請・説得の電話連絡が深夜まで延々と続く。調査員のみならず、関連手続きを行う事務職員や個々のケースを掌握し様々な判断を行う専門職に過大な負担がかかる。特に、命を救うという観点からは、自宅療養者や濃厚接触者で経過観察の方の症状が急速に悪化した場合が最も苦慮するところである。ご本人や家族からの緊急連絡、それを受けての入院フォローアップセンターや救急隊、往診ドクター等への連絡調整、しかしながら今は病床が空いていないため、そのことを断腸の想いでご本人や家族にお伝えする。酸素飽和度93%以下の患者が直ちに入院できないという緊迫した場面に保健所職員は何度も向き合っている。

こうした現場を目の当たりにすると、最も大事なことは感染者を一人でも減らすことと身に沁みて実感する。保健所の実務をふまえ、住民の予防行動を一層促すために伝えたい情報としては、①感染したら最低でも10日間は療養しなくてはいけないこと、②重症者以外は入院できない状況が生じていること、③無症状や軽症でも肺炎が進んで急速に悪化する場合があること、④濃厚接触者と判定されると感染者との最終接触日から14日間の自宅等待機が余儀なくされること、⑤飲酒の有無に関わらず、昼の会食や野外のバーベキューでもしばしば感染が起きていること、⑥勤務先や学校、サークルなどで感染者が出た場合はクラスター対策としてより広い範囲に影響が及ぶこと、などである。

一方、ワクチン接種が始まったこの時期の問題提起として、ワクチン接種後の生活指針が未だ十分に示されていないことを懸念する。ワクチンを打てば、マスクを外して以前の生活様式に戻れると思っている人は多い。米国の疾病対策センターは、ワクチン接種後の行動制約を大幅に緩和したガイドラインを公表した。わが国としては、まずはワクチン接種後の高齢者に対してどのように説明すれば良いのか、エビデンスに基づいた指針の策定が待望される。

北村明彦(八尾市保健所健康まちづくり科学センター総長)[新型コロナウイルス感染症]

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