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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『比較のための数と率』の考え方」鈴木貞夫

No.5066 (2021年05月29日発行) P.57

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2021-04-30

最終更新日: 2021-04-30

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いわゆる第4波の中、新型コロナ死亡者が4月26日に1万人を超えた。この1万19人という数や人口10万人あたりの死亡者数(以下死亡率)7.97人が正しいものであっても、日本のコロナ死亡を他国と比較するときは、その目的に応じて使用指標とその算出法を明確にしておく必要がある。

この日のTV報道番組が、フリップを使いながら、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、台湾の新型コロナ死亡の比較をしていた。人口規模の異なる集団での比較なので、死亡率も列記され、これによる比較が行われていた。死亡率トップは日本の7.97人で、以下、オーストラリア3.55人、韓国3.51人と続き、残りは1未満であった。日本の死亡率を100とすると、韓国は44.5で半分以下である。さて、ここで枠内の問題について考えてもらいたい。

日本が韓国に比べて新型コロナの死亡率が高いのは〇〇〇〇〇〇からである。

がん死亡の地域比較や経年変化を調べるとき、単純な率(粗率)も算出するが、そこに「年齢の標準化」という作業を必ず加える。標準化には直接法と間接法がある(講義で習ったはず)が、妥当性の高い直接法を使って日韓の新型コロナ死亡の比較を試みる。データは簡単な検索でヒットする1)〜3)ので、1次データから自分で計算してみることを勧める。

10歳ごとの新型コロナ感染数を同じ年齢層の人口で割って、層ごとの死亡リスクを計算すると、日韓ともに年齢とともに急激に上昇するが、同じ年齢層の死亡率は驚くほどそっくりといってよい(70~79歳で日本224.5、韓国238.3、80歳以上で日本642.8、韓国624.7)。日本の年齢別人口を使って死亡率を標準化すると、日本が7.97、韓国は7.71となる。日本を100とすると96.7にあたり、日韓の差はほとんどないと言ってよい。問題の答えは「高齢者が多い」である。

指標は目的に合ったものを使うべきで、死亡率を医療の逼迫度や必要医療資源の目安とするなら粗率で比較すべきであろうが、国としての新型コロナ対策の評価や、個人の死亡リスクの目安であれば、年齢は標準化して比較すべきである。日本の高齢化は非常に進んでいるので、年齢により大きく死亡率の異なる疾患は、標準化をするかどうかで大きく値が異なり、考察に影響を与えることがあるので注意が必要である。

先の報道について言えば、中東を含む他のアジア、欧州や南米諸国の死亡率も列記すべきだったと思う。

【文献】

1)   日本の年齢別新型コロナ死亡数
http://www.ipss.go.jp/projects/j/Choju/covid19/index.asp

2)   韓国の年齢別新型コロナ死亡数
https://dc-covid.site.ined.fr/en/data/korea/

3)   日本の年齢別人口(他国もここから検索可能)
https://www.populationpyramid.net/japan/2019/] 

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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