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【識者の眼】「薬価の毎年改定の課題(1)─製薬企業経営への影響を検討すべき」坂巻弘之

No.5049 (2021年01月30日発行) P.57

坂巻弘之 (神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)

登録日: 2021-01-15

最終更新日: 2021-01-15

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わが国の薬価制度の特徴の一つに、「市場実勢価格」に基づく薬価改定の仕組みがある。わが国の薬価改定は、理念的には市場価値が反映された価格調整の仕組みでもあり、部分的ではあるが、市場メカニズムに基づく価格引き下げという特徴もある。

薬価改定は、2020年度までは、消費税導入・引き上げなどの年を除き、概ね2年に1回であったが、18年度の「薬価制度抜本改革」に基づき、21年度からの奇数年に「中間年改定」を行うこととなった。

保険償還額を定めた薬価と医療機関・薬局が実際に購入する市場実勢価格との差が「薬価差益」であり、国民が負担している保険料・公費が医療機関等の経営原資となっていることへの批判視もある。こうした考え方も背景に、中間年改定が実施されることになり、本来であれば、粛々と改定が実施されるはずであった。しかしながら、2020年以降の新型コロナ感染拡大により医療機関や医薬品卸等の経営状況が一変したことを理由にした関係団体からの反対に加え、改定方法を巡っても大きく揉めたが、薬価制度抜本改革議論の中心にいた菅義偉氏が総理大臣に就任したこともあり、反対意見は押し切られ、初の中間年改定が実施されることとなった。

21年度改定は、乖離率が5%を超える品目(1万2180品目、医療用医薬品の69%)とし、R幅(管理コストとして合理的と認められる幅、通常年は2%)は新型コロナの影響を考慮して2.8%とされた。改定により医療費を約4300億円(国費ベースで約1000億円程度)削減するとされる。併せて、新型コロナ対策の一環として「診療報酬上の臨時特例措置」も実施される。

中間年改定の是非については次回述べることにするが、これまで2年に1回の8%程度の薬価引き下げであったものが、今後、毎年8%の薬価引き下げとなることが予想され、簡単に言えば、薬価下落のスピードが2倍になることを意味する。これは、先発・ジェネリックを問わず、多くの製薬企業にとって厳しいものとなり、とりわけジェネリック医薬品の安定供給への影響など、毎年改定が与える影響について検討し、改定率を含む改定のあり方の議論は必要と思われる。

坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価]

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