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【識者の眼】「パンデミック時の『命の選択』」松嶋麻子

No.5047 (2021年01月16日発行) P.57

松嶋麻子 (名古屋市立大学大学院医学研究科先進急性期医療学教授、日本敗血症連盟)

登録日: 2020-12-25

最終更新日: 2020-12-25

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2020年の師走、世界は新型コロナウイルスによるパンデミックの真っ只中にあります。

今回のパンデミックでは、感染者が世界中で急増した3月中旬より中国や欧州、米国のニューヨークなどで重症患者に医療の供給が追い付かず、誰に人工呼吸器を使うか、誰の人工呼吸器を外すか、誰をICUに入れるか、誰をICUから出すか、という「命の選択」の議論が沸き起こりました。ほとんどの国や地域でパンデミックを想定した医療体制は整っておらず、このような命の選択は現場の医療従事者に委ねられ、大きなストレスとなっています。

パンデミック時の「命の選択」について、欧米では2009年の新型インフルエンザH1N1の教訓から、重症患者が多数発生した場合の「ICUトリアージ」と倫理的コンセンサスが作成されています1)2)。具体的には、ICUの入室基準が人工呼吸を要する呼吸不全かショック状態に限定され、ICU入室の除外基準として、心停止蘇生後や重症外傷・熱傷、重症中枢神経障害、進行した悪性腫瘍や不可逆性の免疫不全などが挙げられています。今回のパンデミックにおいて、カナダのオンタリオ州ではこのコンセンサスに基づき「Clinical Triage Protocol」が作成されました3)。この中では、重篤な認知機能障害と進行性の神経筋疾患、85歳を超える超高齢者がICU入室の除外基準に含まれましたが、これに対し「障害を理由に、障害者の治療優先順位を低くしてはいけない」とする声明も出され、実際にICUトリアージを導入する難しさを示しています。

本稿のまとめとして、真野俊樹先生(中央大学大学院戦略経営研究科教授)の言葉を引用させて頂きます。「医療崩壊を防ぐためには、いずれ日本でもドイツやスイスのような基準を作ろうという議論が出てもおかしくない。むしろ、医療者にとっては“自己防衛”のためにも、何らかの基準が欲しいところであろう。しかし、残念ながら、日本ではそういった基準を作るのが難しく、医療者が自ら判断しなければならない。そうなると、医療者も人間であるから、いろいろな思いが交錯するかもしれない」4)

パンデミックでは、基準があっても、基準がなくても現場の医療従事者には「命の選択」に向き合う覚悟が求められます。

【文献】

1)Biddison LD, et al:Chest. 2014;146(4 Suppl):e145S-55S.

2)Christian MD, et al:Chest. 2014;146(4 Suppl):e61S-74S.

3)Clinical Triage Protocol for Major Surge in COVID Pandemic [https://med.uottawa.ca/pathology/sites/med.uottawa.ca.pathology/files/clinical_triage_protocol_for_major_surge_in_covid_pandemic_-_march_28_20205.pdf]

4)コロナ禍が迫る「命の選択」を避けるため、日本国民がとるべき行動. DIAMOND online 2020.5.9

   [https://diamond.jp/articles/-/236492]

松嶋麻子(名古屋市立大学大学院医学研究科先進急性期医療学教授、日本敗血症連盟)[新型コロナウイルス感染症][敗血症の最新トピックス⑫]

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