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【識者の眼】「エビデンスに基づかない新型コロナの情報発信」渡辺晋一

No.5047 (2021年01月16日発行) P.58

渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2020-12-25

最終更新日: 2020-12-25

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政府は今でも「Go Toトラベルが感染拡大の主要な原因であるとのエビデンスは現在のところ存在しない。これは(分科会からの)提言で明確に書かれている」と言っている。しかし政府の分科会は、公衆衛生を専門とする厚労省関連の医系技官OBが主要ポストを占め、政府にお墨付きを与えるものである。そのため実際に診療を行っている医師が多い東京都の専門家会議とは温度差がある。さらに医学におけるエビデンスの質にはランクがあり、政府がいうエビデンスは、最低ランクである。

またGo Toの一時停止は、感染拡大キャンペーンを中止しただけで、感染防御策ではない。人の移動を止めるのが感染防御策であるが、「勝負の3週間」としながら、政府は国民の外出自粛ではなく、Go Toトラベルの延長を決めた。さらに5人以上の会食をしたことへの批判に対し、「国民の誤解」としている。これでは誰も政府を信じられなくなる。

また「Go Toを開始してもすぐには感染者が増えなかったから感染拡大には関係ない」という。しかし10月になるまでは潜在感染者が多い東京が除外されていて、東京が解禁された2週間後から感染者が増加し、今や地方にも観光地を中心に感染が拡大している。また政府は経済と感染防御を対立軸にしているが、感染が拡大すれば経済が回らなくなるのは自明のことである。

そもそもわが国の新型コロナウイルス感染症対策は最初から間違えていた。例えば感染対策で最初に行うべきことは、感染者を特定することである。しかし政府はPCR検査を絞ることにより、感染者の発見を遅らせ、市中感染を拡大させた(早い段階で無症状者が感染を拡大させることはわかっていた)。そして今や死亡リスクが高い高齢者にまで感染が拡大し、一部では医療崩壊を招き、病院は命の選択を行わなければならない状況に追い込まれている。この状況下でも政府は緊急事態宣言を出さずにいる。

また一部のマスコミは、科学的根拠がないデータを切り貼りして、「ただの風邪」「日本人は重症化しない」「後遺症はインフルエンザでもある」「若い人は大丈夫」「マスクと手洗いをすれば大丈夫」「報道が緊急事態をあおり過ぎる」「PCR検査をしている韓国でも感染者は増えている」などの誤解を招く情報を流す。しかし、韓国のPCR検査数は日本より多いが、先進国の中では半分以下で、主にクラスター対策である。このようなトランプ流の情報操作は、国民の行動変容につながらず、非常に危険である。

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[新型コロナウイルス感染症]

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