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【識者の眼】「医療崩壊というリアルなシナリオ」岩田健太郎

No.5046 (2021年01月09日発行) P.58

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2020-12-23

最終更新日: 2020-12-22

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目の前の感染管理認定看護師が「医療崩壊だー」と嘆いている。もちろん、冗談を言っているのではない。

兵庫県では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に充てられた病床がほぼ使いつくされている(本稿執筆時点2020年12月22日)。いやいや、ダッシュボードを見るとまだ空床があるじゃないか(https://www.stopcovid19.jp/)、という意見は「机上の空論」というもので、例えば多くの「空床」は「ほとんど何もしなくてよい」軽症患者限定のベッドだったりする。そういう患者の多くは専用のホテルや自宅待機でも大丈夫だから病院に入院する必要はない。「医療」が必要な中等症、重症患者を診るベッドは逼迫しており、ほとんど余裕がない。我々はLINE(ライン)を使って各医療機関の「実際の」病床稼働状況を相互確認しているが、本当に空きがない。

闘病期間が長いCOVID-19重症患者は、一度入院すると簡単にはICUを退出したり、退院したりできない。空床ができる典型例は「患者が死亡した時」である。自宅で苦しむ患者も入院できない。既に病床を埋めている患者が亡くなるとようやく入院できる。医療者は、「この患者が亡くなれば新規入院を取れる」という悪魔の囁きを一瞬だけ脳裏によぎらせ、そして慌てて否定する。

クラスターは突発的に発生するし、しばしば同時発生する。実効再生産数が下がっても少しも安心できない。病院、透析センター、老健施設などでクラスターが起きると、突如として実効再生産数はバカ上がりし、瞬間的に医療は逼迫する。これが繰り返され、だんだんと医療現場は逼迫するのである。「施設へのコロナ持ち込みを防げば大丈夫だ」という呑気な意見を耳にしたことがあるが、そんな便利な方法は残念ながら、ない。「相手のシュートを全部止めて、こちらのシュートを全部決めればサッカーの試合は勝てる」という「識者」みたいなものだ。ハイスペックの急性期病院ですら院内感染ゼロは超難事である(もちろん、それでも目指すのだが)。リソースに乏しい慢性期医療の現場でそれをやれ、完璧にやれ、というのは無理難題というものだ。

入院が必要な患者に入院させるスペースがない。無理やり慌てて病床を作ると、今度は通常医療のスペックが激減する。感染者を減らさなければ、どんなに病床をやりくりしても付け焼き刃なのだ。

感染者を減らす、という一番の目標を放棄してきた日本で、医療崩壊のシナリオは非常にリアルなシナリオなのである。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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