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東洋医学と現代医学とを駆使する医師としての“ハードディスク”[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.33

田中耕一郎 (東邦大学医療センター大森病院東洋医学科准教授)

登録日: 2020-12-31

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医学部の漢方医学教育必修化によって、4年生全員が東洋医学科をローテートするようになった。3日間の限られた時間で、できるだけ多くの体験を通じ、興味を喚起するような時間とするよう日々努力している。

初診患者の予診では、「なぜ東洋医学に紹介されるに至ったのか」という点を詳細に聞き取ってもらうようにしている。その過程の中で、学生は現代医学における東洋医学の位置づけを自ら考えることになる。診断学では確定に至らなかった症状、病名はあっても標準治療法が確立されていない領域、診断がついているが漢方薬での有用性が報告されている分野、標準治療と併用して漢方薬を希望される場合など様々である。また、漢方生薬一つひとつの色、形、触感、味、香りの違いを五感で触れ、試飲する。さらに鍼と灸を用い、“ツボ”という反応点を刺激することで、痛みのレベルや皮膚温度の分布を変化させうることを体験してもらう。やや“異質な医学”の選択肢を体感することで、医学生の“ハードディスク”の拡張を試みる。

東洋医学科の現場での守備範囲は内科に限らず、外科、小児科、産婦人科、泌尿器科、耳鼻咽喉科、皮膚科、心療内科、精神科などと幅広く及んでいる。そのため、東洋医学の系統的な理解に加え、現代医学においてより幅広く深い専門知識が必要となってくる。適切なタイミングで患者にとってよりよい形で他の専門科と連携するためである。また、現代医学の新しい知見をアップデートすることで病態への理解が進めば、東洋医学からの病態の考察もより深みを増す。

東洋医学の体系は、現代医学にはない観点があり、患者をまったく異なる角度から学ばせてくれる。日々患者を診る上で新しい発見をさせてくれる源泉である。2つの医学体系を駆使するのは、2つの語学を同時に使いこなすことに似ている。英語を話すときの感受性、行動、思考のあり方が、日本語を話す時のそれと異なるのと同様である。医師としての“ハードディスク”の拡張のために、東洋医学を系統的に深めたい、という医師が増えてくることを切に願っている。

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