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【識者の眼】「Go Toが広げるコロナの『ノリ』」岩田健太郎

No.5041 (2020年12月05日発行) P.55

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2020-11-27

最終更新日: 2020-11-27

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菅義偉首相が「トラベルが主要な原因だというエビデンスは存在しない」「トラベル事業の利用者延べ4000万人に対して関連する感染確認は180人程度」と述べ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のGo Toによる感染拡大を否定している(11月26日時事通信社)。

詭弁である。

11月25日に感染者ゼロだった都道府県はただ一つ、徳島県だ。それ以外の46都道府県全てで新規の新型コロナウイルス感染者が報告されている。東京や大阪、北海道などで多数の感染者が見つかっていることも問題だが、このような全国的な広がりも大きな問題である。

新型コロナウイルスは、例えば西ナイルウイルスのように渡り鳥が媒介したりはしない。感染の広がりは人から人によるものだ。日本各地に感染が広がっているのは、人がある自治体から別の自治体に移動しているからだ。それ以外の感染経路は想定できない。よって、人の移動が日本での新型コロナウイルス感染を広げているのである。冬が近づいて、気温が下がって、といった事情はある地域の感染者の増加を説明できても、感染者の地理的な広がりは説明できない。

最近Natureに掲載された論文によると、レストランでの会食が感染増加の最大の因子となっている(https://www.nature.com/articles/s41586-020-2923-3)。エビデンス・ベイスド・メディシンは「他者」のデータを自らに援用する営為である。他人が参加したランダム化比較試験の結果は自分にもアプライできるであろう、と考えるのだ。

保健所も医療機関もGo To参加の有無をいちいち感染者に確認しないし、そもそもある地域にGo Toでコロナを持ち込んだ一人の感染者がクラスターを発生させれば、それはGo Toがもたらしたクラスターなのだ。繰り返すが、180人程度といった言い抜けは詭弁にすぎない。Go Toが日本でコロナ拡大を助長したと考えるほうが合理的だし、そうでないという「エビデンスはない」。

政府がGo Toキャンペーンで「コロナなんて怖くない。経済対策のほうが優先だ」といった「ノリ」を作ってしまった罪は大きい。経済対策は重要だが、それは十全なる感染対策とコロナ感染縮小が可能にする対策だ。ブレーキとアクセルを同時に踏めば、つんのめって事故るだけだ。感染対策を強化し資金援助すればよいのである。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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