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【識者の眼】「子ども虐待死亡事例検証報告から見えるもの」小橋孝介

No.5037 (2020年11月07日発行) P.58

小橋孝介 (松戸市立総合医療センター小児科副部長)

登録日: 2020-10-29

最終更新日: 2020-10-29

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子ども虐待による死亡事例は毎年厚生労働省の専門委員会において検証が行われ報告書が公開されている。9月30日に第16次報告(2018年度の死亡事例の検証結果)が公開された1)。心中を除いた虐待死の人数はここ数年50人前後で推移しており、第16次報告でも同様で54人だった。

この死亡事例検証の対象とされる虐待死は、明確に虐待が原因とされた事例のみである。しかしながら、臨床の現場では乳児の心肺停止による搬送例などで、その状況や家族背景などから虐待を強く疑うものの「虐待死」とはならない子どもに出会うことも少なくない。日本小児科学会子どもの死亡登録・検証委員会が行った4地域(東京都、群馬県、京都府、北九州市)における2011年の小児死亡登録検証の報告2)では、虐待による子どもの死亡の推計値は年間350人で、厚生労働省における検証報告の約7倍と報告されている。この数値は、child death review(CDR)などの全小児死亡の登録・検証が行われている海外の統計データなどからも概ね妥当な値であると考えられている。CDRについては、2017年の改正児童福祉法の附帯決議として日本でも導入を検討することが採択され、2020年度から全国5地域でモデル事業が開始された。国は2022年を目処にCDRの制度化を目指している。

今回の報告では、過去の報告と同様に0歳児が22人(40.7%)と最も多く、その内7人(31.8%)が0歳0カ月児だった。これまでも妊娠期からの継続した支援を目指し、市区町村における子育て世代包括支援センターの設置や、支援が必要な妊婦を特定妊婦として地域の要保護児童対策地域協議会で支援対象とするなど、ハードである支援のシステムは出来つつある。今後はこのハードの上で動くソフトである多機関、多職種連携の知識と技術を持った人材の育成を各関係機関、専門職の中で行っていく必要がある。特に日本では小児領域の多職種連携教育は遅れており、この領域の教育プログラム等の充実が望まれる。

【文献】

1)社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会:子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第16次報告). [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190801_00001.html]

2)溝口史剛, 他:日児誌. 2016;120(3);662-72.

小橋孝介(松戸市立総合医療センター小児科副部長)[子ども虐待][子ども家庭福祉][虐待死][child death review]

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