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【識者の眼】「日本における大腸がん検診の開始年齢(一次検診の便潜血検査)」渡邉一宏

No.5035 (2020年10月24日発行) P.54

渡邉一宏 (公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)

登録日: 2020-10-06

最終更新日: 2020-10-06

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大腸がん死亡者数は減少傾向にあった米国で5万2286人(2016年)→5万3200人(2020年予測)、増加傾向の日本は5万1600人(2016年)→5万4200人(2019年)で、ともに増加している。その一方で、日本人は自然死としての老衰が増加し、2018年から亡くなった人の死因は①悪性新生物、②心疾患、③老衰の順である。2018年に私は当誌(No.4892)に「無症状の高齢者に対する大腸癌スクリーニング内視鏡検査の是非」を寄稿した。ここで私は、年齢無制限の一次大腸がん検診(便潜血検査)陽性からの、リスクの高い超高齢者の二次検診の大腸内視鏡検査は誰が責任を持って行うのか? と問題提起を行った。あれから2年の経過を見ていきたい。

まず我々内視鏡医が携わる大腸内視鏡の前に、便潜血検査に注目する。スクリーニングとしての便潜血検査の有効性に異論はなく、日本において1992年に老人保健法に基づく保健事業に組み込まれ普及し、40歳から年齢無制限で行われている。これは、1980年代の年齢別の大腸がん発生率から40歳以上とされ(藤田昌英, 他:消化器集団検診. 1984;63:7-16.)現在に至る。米国においては便潜血あるいは内視鏡による検診が1996年米国予防医療サービス対策委員会(USPSTF)で50歳以上が中推奨Bで採用された。現在の米国では2016年にUSPSTFが50〜75歳は高推奨A、76〜85歳までは低推奨Cとしている。このように米国の大腸がん検診開始年齢は日本と比較し10歳も遅い。そのため最近の米国では50歳未満の壮年の大腸がん発生増加が問題視され、2018年米国がん協会(ACS)が45歳から検診を推奨、2020年JAMA誌では米国人の約34.6%をカバーするがん登録SEERデータベースを用いて、大腸がん検診の開始年齢を50歳未満に引き下げることを支持する報告(Abualkhair WH, et al:JAMA Netw Open. 2020;3: e1920407)をした。前述のUSPSTF勧告の次版は2019年に一般意見公募が終了し、2020年以降に大腸がん検診開始年齢を「45歳以上」に変更が予想される。当然米国でも「40歳以上」も検討されていたが、費用対効果から見送られた。いずれ費用面が解決されれば世界的に40歳開始となるのであろうか。エビデンスとしては低いながらも40歳開始を導入した日本の先見の明に感心させられるが、米国と比べ受診率は低い。

渡邉一宏(公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)[内視鏡医療における地域貢献][大腸がん検診①

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