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【識者の眼】「日本の医療の遅れの責任はどこにあるのか?」渡辺晋一

No.5033 (2020年10月10日発行) P.59

渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2020-10-01

最終更新日: 2020-10-01

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感染症対策の基本は①感染者の発見、②隔離、③治療である。しかし日本では新型コロナウイルス感染者の発見に必要なPCR検査を絞って、人口当たりの検査数は発展途上国よりも少ない。最近これに業を煮やした某企業が、経済を回すためにも独自でPCR検査を行うと言う。つまり日本の新型コロナ対策は国民任せで、政府が行うのはGo Toである。他にも日本のお粗末な感染症対策は多い。例えばハンセン病では、遅くとも1960年には治療法が確立していたが、1996年までらい予防法は廃止されず、多くの患者は隔離され、非人道的な扱いを受けていた。

証拠に基づいた医療(EBM)を知れば、多くの点で日本は遅れていることがわかるはずであるが、治療面でも日本は、欧米は勿論、東南アジア諸国より劣っている。その一つとしてレチノイドがある。現在レチノイドは皮膚科では乾癬や角化異常症、ニキビ治療薬として使用されているが、最大の副作用は催奇性である。日本で使用されているレチノイドにはエトレチナート(チガソン)があるが、この薬の半減期は半年と長い。そのため内服中止後女性では2年、男性では6カ月の避妊が必要で、世界保健機関(WHO)は1990年代に使用すべきでないと勧告を出している。しかし日本では今でも使用され、医師の説明不足か、患者が忘れてしまったのか不明であるが、服用後に奇形が生まれた事例が報告されている。

一方海外では半減期が約2日と短いアシトレチンがあるため、エトレチナートを使用することはない。しかもアシトレチンは新薬ではなく、20年以上前から世界中で使用されているが、日本にはない。非加熱血液製剤でHIVが感染するのがわかっていながら、社会問題となるまで、放置されたのと同じ構図である。

また海外ではイソトレチノインというレチノイドが30年以上前から存在し、重症ニキビの第一選択薬となっている(避妊期間:服用期間中とその前後1カ月間)。この薬は欧州では中等症でも、標準治療に反応しない患者には第一選択薬となっている。しかし日本では認可されていない。重症のニキビ患者は顔に結節や瘢痕が生じ、深刻な精神的苦痛を与えることが多いが、日本ではどうすることもできない。この薬の導入により日本の重症ニキビ患者の悩みが消える可能性があるのに、厚生労働省は何もしない。このような事例は数えればきりがない。海外の文献やWHOの報告を見ればEBMを知ることができ、日本でも世界の標準治療を実践できるのに、厚労省はこれをしないようである。

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[EBM]

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