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クロストリディオイデス(クロストリジウム)・ディフィシル感染症(CDI)[私の治療]

No.5032 (2020年10月03日発行) P.48

森 伸晃 (国立病院機構東京医療センター総合内科・感染症センター副センター長)

登録日: 2020-10-02

最終更新日: 2020-09-29

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  • クロストリディオイデス(クロストリジウム)・ディフィシル感染症〔Clostridioides(Clostridium)difficile infection:CDI〕は,主に腸管感染症を主病変とした急性感染症である。腸管内に侵入したクロストリディオイデス・ディフィシルが,トキシンを産生することによって下痢や腹痛などの腸炎症状をきたす。その発症には,抗菌薬の投与などにより腸内フローラが乱れることが関与している。多くは医療機関に入院中の患者でみられるが,市中発症例があることも知られている。重症化すると麻痺性イレウスや中毒性巨大結腸症を呈し,下痢を認めない例もある。
    クロストリディオイデス・ディフィシルは芽胞を形成する特徴を有することから,高温に強くアルコールなどの消毒薬などにも抵抗性を示す。そのため,環境中や腸管内に長期間定着することが可能であり,ヒトを介して伝播するため,医療機関での院内伝播や再発例が多いことが問題となる。
    現時点で日本では,北米や英国などで問題となった強毒株(BI/NAP1/027)が原因となることは稀であり,海外とは疫学が異なる1)

    ▶診断のポイント

    24時間以内に3回以上もしくは普段より便の回数が増加し,ブリストールスケール5~7の下痢便を認める患者を対象として,便中にトキシン産生性のクロストリディオイデス・ディフィシルの有無を確認する。トキシン産生性については,現在広く使用されているイムノクロマト法による迅速のトキシン検査では感度が低いため,GDH抗原陽性(トキシン陰性)の場合には,PCRなどの遺伝子検査を利用する2)

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    バイタルサインや腹部所見などから,ショック状態や腸管穿孔など緊急対応が必要な状態でないかを確認する。腸内フローラの多様性を回復することが重要であるため,まず現在使用中の抗菌薬を中止できるか検討する。その上で,過去にCDIの罹患歴があるか,重症例であるかを病歴や身体所見,検査所見などから判断し,抗CDI薬を選択する。

    重症度に関しては様々な重症度判定があるが,その妥当性については十分評価されていない。そのため,標準化された重症度がなく,臨床的判断が必要となる。米国感染症学会・米国病院疫学学会(2017)のCDIガイドライン3)では,白血球数1万5000/μL以上または血清クレアチニン1.5mg/dL以上を重症としているが,その他の検査所見(血清アルブミンなど)や臨床所見(バイタルサイン,年齢,腹部所見など),画像所見(腹部X線やCT,下部消化管内視鏡など)を含めて複合的に評価する必要がある。

    非重症例では,メトロニダゾールによる治療を行う。その理由としては,日本では強毒株によるCDIの報告がほとんどないことや,メトロニダゾール耐性のクロストリディオイデス・ディフィシル1)はほとんどみられないこと,また,非重症例では再発率や30日死亡率がバンコマイシンの治療と変わらないという報告などに基づく。ただし,メトロニダゾールによる中枢・末梢神経障害の副作用が報告されており,注意が必要である。

    フィダキソマイシンは,2018年に使用可能となった新規抗菌薬であり,腸管内のグラム陰性菌や嫌気性菌に対する活性がなく,狭域スペクトラムな抗菌薬である。また,メトロニダゾールやバンコマイシンにはない,芽胞形成や芽胞からの発芽を抑制する効果が報告されている。新規薬剤であり,いつ,誰に投与すべきかについて明確な基準が定まっていないが,その特徴から再発を繰り返す症例や,腸内フローラの多様性が原疾患に影響する造血幹細胞移植や炎症性腸疾患の患者などでは,その有用性が高まると考える。

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