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【識者の眼】「国民に対して『死の教育』をいかに行うか」杉浦敏之

No.5034 (2020年10月17日発行) P.63

杉浦敏之 (杉浦医院理事長)

登録日: 2020-09-25

最終更新日: 2020-09-25

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ACPの普及に関する国民への啓発で、今後最も重要となるのが「教育」である。本誌No.5016で垣添忠生氏が述べておられるように、特に学童に対する教育は効果が大きいと思われる。その点にいち早く注目したのが千葉県の松戸市医師会である。2015年度より「まちっこプロジェクト」を医師会主導で開始し、小学校高学年と中学生に「命の尊さ」「認知症」について出前授業を行っている。当然その中にはACPや「死の教育」にかかわる内容も盛り込まれている。授業を希望する学校は徐々に増え、現在では松戸市全体に拡大しているとのことである。また、他のいくつかの自治体でも同様の計画を立ち上げようとしており、筆者の勤務する埼玉県川口市でも計画の実現に向けて活動している。まちっこプロジェクトの画期的な点は、効率の良い市民啓発のために、ある意味子供を利用することにある。通常我々は成人に対して啓発活動をすることが一般的で、この場合、啓発を受けるのは多くの場合当人あるいは近しい友人や配偶者のみであり、波及効果に乏しい。一方、まちっこプロジェクトでは生徒たちが聞いた内容を両親、あるいは祖父母に話し、その状況や話した相手の感想をレポートするように宿題を出すのである。親や祖父母は、子や孫から人生の終末期にかかわる話をされると少なからず驚き、関心を向けるであろう。つまり、多くの場合生徒一人に対して複数人の成人が啓発を受けることとなり、さらに子や孫からその様な話を聞くことにはインパクトがある。

幸いなことに文部科学省の学習指導要領が改訂され、道徳の授業に「命の尊さ」を組み込むことが小学校では今年から義務化された。これを追い風にして、国民全体に、戦後の日本から徐々に失われつつある「死の概念」を、学校教育を通じて取り戻すきっかけになればよいと思う。残るは医療者、特に医学部における「死の教育」をいかに行うかである。本来はここが「扇の要」となるだけに、各大学での対応に期待をしているところである。

かみのけ座のM88(筆者撮影)。地球から6,360万光年の距離にある

杉浦敏之(杉浦医院理事長)[現在の日本の医療体制下で安らかに人生を全うするには? ⑨]

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