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【識者の眼】「日本のCOVID-19対策には、未来への投資の観点が欠けているのではないか」堀 有伸

No.5029 (2020年09月12日発行) P.58

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2020-09-01

最終更新日: 2020-09-01

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今年8月、British Medical Journal誌のEditorialに「日本におけるCOVID-19の再流行(Resurgence of covid-19 in Japan)」という記事が掲載されました(https://doi.org/10.1136/bmj.m3221)。この中では、政府の方針決定のあり方についての説明責任と透明性が不十分で、専門家会議の独立性が保たれていなかったことなど、日本で行われたCOVID-19対策について辛辣な批判がなされています。初期に行われたPCR検査が少なかったことも指摘され、今後は検査体制を拡充し、遺伝子配列のシークエンシングを多量に行い、ビッグデータによる解析まで可能にするような体制の整備が呼びかけられました。

私はこの記事を読んで、日本の感染症対策に欠けているのは、「未来に向けて継続してより良い感染症対策を可能にし、関連した学問と専門家集団・組織の発展が可能になるようなビジョンと意図、そのために必要な投資を行う意志」ではないか、と明確に考えることができるようになりました。たとえばPCR検査についても、これが発展途上の技術であることが考慮されることは少なく、またその目指しているものには「陽性/陰性」の判定だけではなく、ウイルス等についての遺伝子全般の情報の収集も含まれていることが報じられることは少ないようです。

これまでの日本のCOVID-19対策は、「なるべく投資を行わずに、現場の関係者にリスクとコストを押しつけて、専門家の発言力が高まらないようにしながら、この問題を乗り切ろうとする」かのように見えてしまうことがあります。現状のPCR検査の限界を踏まえた広報を行い、適切な運用への理解と協力を求めることも行わないまま、PCR検査を拡大することの問題点のみが強調されます。

いずれにせよ、「世界中でCOVID-19の克服を目指して取り組んでいる」中で、日本からの学問的な発信が少ないのは残念な状況です。そして、福島の原発事故の問題に取り組んできた立場からは、原発に対する津波のリスクが東日本大震災の前から警告されていたにもかかわらず、経済的な顧慮からそれが省みられずに事故につながったことへの反省が行われず、全く忘却されているように思えることも、悲しく思います。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[新型コロナウイルス感染症]

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