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赤痢アメーバ症[私の治療]

No.5026 (2020年08月22日発行) P.38

熊谷正広 (厚生労働省東京検疫所東京空港検疫所支所検疫衛生課課長)

登録日: 2020-08-23

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  • 赤痢アメーバ症は,便に汚染された水や飲食物あるいは手指などを介して起こる感染症としての側面と,性感染症としての側面を持つ。世界人口の推定約1%が赤痢アメーバに感染しており,感染者は特に中南米,アフリカ,南アジアの途上国に多い。一方,先進国では男性同性愛者間で流行がみられる。わが国では,途上国からの帰国者や男性同性愛者(およびコマーシャルセックスワーカー)において患者発生がみられるほか,知的障害施設での集団感染事例が報告されている。
    赤痢アメーバは生活環の中で栄養型と囊子(シスト)という2つの型をとる。栄養型はヒトの腸管腔内または臓器・組織内で2分裂によって増殖し,組織融解などにより病原性を惹起する。栄養型は生体外では速やかに死滅する。大腸において栄養型の一部が囊子になる。腸管外では囊子形成は起きない。囊子は便とともに排出されるが,外界での抵抗性があり,好適環境下では数週間感染力を保つ。囊子が感染型であり,糞口経路によって感染する。かつて,赤痢アメーバには病原株と非病原株が存在すると考えられていたが,形態学的に区別のつかない2種(Entamoeba histolyticaとE. dispar)に再分類された1)。E. histolytica(赤痢アメーバ)とE. dispar(和名なし)の感染者の割合は国や地域によって異なるが,世界的には約1:9である。E. disparは,生活環と形態が赤痢アメーバに類似しているが,組織侵入性はなく非病原性である。

    赤痢アメーバ症は,アメーバ性大腸炎やアメーバ赤痢などの腸アメーバ症と,栄養型が他の組織・臓器へ播種することによって起こるアメーバ性肝膿瘍などの腸外アメーバ症に大別される。また,感染しているが症状がないシストキャリアが存在する。腸アメーバ症の症状は,下痢,粘血便,しぶり腹などである。アメーバ性肝膿瘍は高熱,季肋部痛などで始まるが,急速に重症化する危険性があるので,速やかな診断と治療が必要である。なお,腸アメーバ症の症状がないまま腸外アメーバ症が起こることもある。

    感染症法では,腸アメーバ症と腸外アメーバ症を含めて「アメーバ赤痢」と定義されている。全数把握の5類感染症で,7日以内の届出が必要である。

    性行為による赤痢アメーバの感染者は,梅毒,HIV感染症,B型肝炎,性器ヘルペスなど,他の性感染症の病原体にも感染していることが少なくない。

    潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患との鑑別が重要である。ステロイドの投与で赤痢アメーバ症は増悪する。

    ▶診断のポイント

    【顕微鏡下での原虫の検出】

    ①腸アメーバ症では,便の直接塗抹で栄養型や嚢子を検出するのが基本である。栄養型は,動きが止まると便中の夾雑物と見分けがつきにくくなるので,検体は37℃に保温してできるだけ早く鏡検する。嚢子は,大きさ(直径12~15μm),形(球形),色調(灰白色半透明)からおおよその見当がつくが,内容(1~4個の核など)を見るために,ヨード・ヨードカリ染色,コーン染色など2)を行う。ただし,形態ではE.disparと区別できないので,他の検査結果と合わせて考える。

    ②大腸粘膜の生検組織切片(HE染色,PAS染色)から,組織に侵入している栄養型を検出する。

    ③肝膿瘍のドレナージ液からの赤痢アメーバ(栄養型)の検出率は,1/2程度と言われている。

    【ELISA法による病原体の抗原の検出】

    「E. histolytica ⅡTM(TechLab, Inc.)」などのキットが販売されているが,研究目的にのみ使用が制限されている。

    【PCR法による病原体遺伝子の検出】

    赤痢アメーバとE.disparを鑑別することができる。

    【抗体検査】

    血清を検査材料として,主に腸外アメーバ症の診断のために行われる。抗体陽性は「現在または過去の感染」を意味する。唯一国内で診断用として認可されていて保険適用だった赤痢アメーバ抗体検査試薬「アメーバスポットIF」(シスメックス・ビオメリュー社)が2017年末に製造中止となった。国立感染症研究所寄生動物部では,ELISA法による抗体検査を実施し,依頼検査・行政検査に対応している。アメーバ性肝膿瘍では一般に抗体産生量が多いので,二重免疫拡散法(オクタロニー法)による抗体検査が有用であるが,一部の研究者が研究目的で実施しているのみである。

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