株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

福島県浜通りをイノベーションの原点として原子力災害医療の人材育成を[福島リポート(32)]

No.5026 (2020年08月22日発行) P.52

山下俊一 (福島県立医科大学副学長/国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構高度被ばく医療センター・センター長)

登録日: 2020-08-19

最終更新日: 2020-08-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

はじめに

東京電力福島第一原子力発電所事故(福島原発事故)以前の国内の原子力災害医療体制は、内閣府原子力安全委員会の下で、初期、二次、三次被ばく医療体制が原発立地道県を中心に整備され、東日本と西日本の2つの拠点(旧放射線医学総合研究所と広島大学)に統括されていた。しかし、事故後に原子力安全委員会は解消され、環境省の外局として原子力規制委員会が設置され、その事務局として原子力規制庁が2012年9月に発足し、現在に至っている。

2015年8月には、原子力災害拠点病院等の施設要件が制定され、「高度被ばく医療支援センター」と「原子力災害医療・総合支援センター」を国が指定、「原子力災害拠点病院」を立地道府県が指定、これに協力する「原子力災害医療協力機関」を自治体が登録している。さらに、2019年4月からは施設要件の改正に伴い、新たに「基幹高度被ばく医療支援センター」が国により指定され、緊急被ばく医療に関する研修の体系化と実効性ある被ばく医療ならびに線量評価が求められている(図1)。

筆者は2019年度から異なる役割を有する2つの機関に所属することで、福島を巡る新たな課題と可能性を認識する機会を得た。福島原発事故から9年が経過した現在の、国内の原子力災害医療体制の整備状況を紹介し、福島の現状に鑑みて被ばく医療人材不足の課題とその解決策を提案したい。

着実に進む原子力災害医療体制の再構築

原子力規制委員会ならびに規制庁の指導と尽力により、福島原発事故以降の原子力災害医療体制の再構築は着実に進展している1)

旧放射線医学総合研究所(放医研)が、現在は国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(量研、National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology:QST)に再編された。2019年4月からは量研内の量子医学・医療部門に、重粒子線治療を専門とするQST病院と、研究部門である放医研、そして新たに高度被ばく医療センターが発足した。

高度被ばく医療センター(Center for Advanced Radiation Emergency Medicine:AREM)は、国指定の基幹高度被ばく医療支援センターの役割と機能を担う実行組織と位置付けられ、他の4つの高度被ばく医療支援センター(Advanced Radiation Emergency Medical Support Center)である、弘前大学、福島県立医科大学、広島大学、長崎大学と連携し、その役割と機能を強化して課題解決に向けた努力が積み重ねられている。その一つが被ばく医療に関する研修内容の均てん化であり、研修情報の管理プログラムの統一である。平時からの被ばく医療人材の確保と、緊急時における円滑な情報共有や活動支援のためのネットワーク作りが求められている2)

異なる次元の危機が同時に発生進行する複合災害こそが福島原発事故の教訓である。稀な原発事故や放射線事故に対する顔の見えるネットワーク作りは、福島原発事故前も先人らの地道な努力が払われていたが、新型コロナウイルス感染症のアウトブレイクという世界的な難題の前に、本年度の計画はすべて延期や変更を余儀なくされた。新型コロナウイルス感染症流行下における原子力災害医療のBCP対応も各支援センター間で整備されなければならない。

このコンテンツは会員向けコンテンツです
→ログインした状態で続きを読む

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top