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【識者の眼】「意見を表明するということ」岩田健太郎

No.5020 (2020年07月11日発行) P.62

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2020-07-02

最終更新日: 2020-07-02

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香港国家安全維持法が6月30日(現地時間)に施行された。中華人民共和国に属しながら別制度を維持していた香港。しかし、中国に対して異議を唱える行為が国家安全維持法により「違法行為」と解釈され、最高で無期懲役が科せられる場合もあるという。既に本法違反疑いで300人以上が逮捕されたという(7月2日時点)。

僕も何度か香港を訪問している。2009年の新型インフルエンザ流行時は、香港の病院の感染対策システムを視察した。2002〜03年に重症急性呼吸器症候群(SARS)で苦しんだ香港は、感染症専門病院を作ったり、ダッシュボードと呼ばれる情報開示システムを整備するなど、当時の日本よりも遥かに進んだ感染防御策をとっていた。抗菌薬適正使用プログラムも非常に効果的で、神戸大学病院はこれを丸パクリして「Big Gunプロジェクト」と称して活用した。この試みは内閣官房の第2回薬剤耐性(AMR)対策普及啓発活動表彰にて応援大使賞を受賞した(2018年)。

米国では黒人が警官に殺される事件があり、これをきっかけにBlack lives matterと呼ばれる社会運動が全世界的に展開されている。テニス選手の大坂なおみ、バスケットボール選手の八村塁がソーシャルメディアなどを活用して、自らもこのムーブメントにコミットする意を表明している。大坂の父親はハイチ人、八村の父はベナン人だ。

日本ではスポーツ選手が政治的発言をすることが好まれない。スポーツに専念していろ、と彼らはバッシングされた。

誰もが新型コロナとは無関係でいられないのがパンデミックだが、感染症専門家の中には「素人は口を出すな」と「非専門家」がテレビなどでコメントするのを嫌うことがある。科学的妥当性のないコメントもあり、その気持ちも理解しないではないが、言論の自由は間違う自由の保証でもある。異論は認めない、の言論封圧は全体的には好ましくない。

僕がダイヤモンド・プリンセス号で経験したのも「問答無用の追い出し」「反論の自由も認めず」な不寛容だった。仕方なくYouTubeで反論を表明したが、そのために多くのバッシングを受け、罵倒者には医者も多かった。

言論封圧の魔の手は法律的にもたらされるとは限らない。言論封圧は同調圧力や組織風土からも容易にもたらされる。しかし、その自由を死守できてこその民主主義社会でもある。隣人の悲劇から、我々はどうあるべきかを考える機会とすべきなのだ。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[言論の自由]

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