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肝性脳症[私の治療]

No.5016 (2020年06月13日発行) P.47

川口 巧 (久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門講師)

鳥村拓司 (久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門主任教授)

登録日: 2020-06-15

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  • 肝性脳症は,様々な要因により肝代謝を受けなかった有害物質が中枢神経に作用することによって発症する神経機能障害である。肝機能の低下,門脈-大循環短絡,便秘,消化管出血,窒素負荷,脱水,感染症,向精神薬や利尿薬の使用などが肝性脳症の発症に関与する。肝性脳症の治療は,神経機能障害を認める場合の治療だけでなく,予防的な治療も重要である。

    ▶診断のポイント

    指南力の低下,異常行動,羽ばたき振戦などが認められた場合に肝性脳症を疑う。肝性脳症は慢性肝疾患患者に認められる場合が多いが,急性肝不全(肝疾患を基礎疾患に有しない)でも認められることがある。鑑別診断には,低血糖,ケトアシドーシス,低ナトリウム血症,代謝性アルカローシス,アルコール離脱症候群,ウェルニッケ–コルサコフ症候群,非痙攣性てんかん重積などが挙げられる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    肝性脳症の治療は,有害物質の除去とアミノ酸インバランスの是正が基本である。異常行動や羽ばたき振戦などの神経機能障害を認め,便秘や排便量が低下している場合は,腸管内のアンモニアをはじめとする有害物質を除去する目的で浣腸を行う。次に,慢性肝疾患患者の場合は,アミノ酸インバランス是正のために肝不全用アミノ酸注射液を点滴投与する。タール便や貧血の進行が認められれば消化管出血の有無を確認し,脱水や向精神薬や利尿薬の使用が肝性脳症の発症に関わると考えられる場合は,補液や処方を調整する必要がある。

    West Haven criteriaでgrade 3以上,または消化管出血などによる経口摂取不能時には絶食とし,糖質を中心とした静脈栄養管理を行う。アミノ酸製剤は肝不全用アミノ酸注射液を用いるが,過剰な窒素負荷とならないよう投与量には留意する。急性肝不全に伴う肝性脳症では,Fischer比(分岐鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸)の低下を伴っていない場合が多いだけでなく窒素負荷となりえるため,肝不全用アミノ酸注射液は基本的には投薬しない。

    経口摂取が可能となった場合には,食事と肝不全用経口栄養剤による摂取エネルギーを25~30kcal/kg/日,蛋白量摂取量を1.2g/kg/日とする。摂取エネルギーや蛋白量の制限は,低栄養状態を助長することから基本的には行わない。食事療法に加えて,合成二糖類,難吸収性抗菌薬,レボカルニチンを必要に応じて投薬する。また,筋肉はアンモニアの代謝を介して肝性脳症の発症に関わることから,サルコペニアについても評価する。

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