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【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症:精神科病院の懸念と対応」平川淳一

No.5002 (2020年03月07日発行) P.63

平川淳一 (平川病院院長、東京精神科病院協会会長)

登録日: 2020-02-28

最終更新日: 2020-02-28

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新型コロナウイルスが世界を襲っている。ダイアモンド・プリンセス号の封じ込め作戦は逆に感染の温床となった印象もある。しかし、あの約3700人もの乗客、乗員がそのまま上陸していたら、到底、対応は困難であり、瞬く間に破綻したと思われる。苦渋の決断ではあるが、正しい対応であったと評価するしかないと思う。

精神科病院は豪華客船ではないが、閉鎖病棟はまさしく船室と同じ閉鎖環境である。そのうえ、患者の多くは清潔保持ができず、咳エチケットもできず、人によってはスタッフに向かって咳やくしゃみを吹きかけるように病状をアピールする場合もある。ノロウイルスなどが一旦はやると、次々に感染し、収束するまでに1カ月以上かかる場合もあり、本来の治療どころではなくなる。また、スタッフも感染し出勤停止になるため、もともと一般科より少ないスタッフが減り、さらに少人数で対応しなければならなくなる。少ない人数での長期戦は非常に消耗する。それでもノロで死亡する可能性は低いので、まだ気が軽い。インフルエンザもワクチンやタミフルⓇの予防投与などを行い、拡散を防げる時代になったので、これもなんとかしのげるようになった。

そこに今回の新型コロナウイルスである。感染力が強く、無症状の潜伏期から感染力があり、一旦治ってからも、再燃し、肺炎を起こす。治療法も確立されておらず、高齢者や合併症を持っていると命の危険があるという。こんなウイルスが精神科病院に入り込んだら、たいへんなことになる。とにかく、面会者には病棟に入らないでもらい、職員には徹底して持ち込まないように出勤時には検温し、37.5度を超えた場合は出勤をさせない。また、精神科には必要な社会復帰のための外出訓練も遠慮してもらう。手洗いの方法を指導し、アルコール依存症患者にも、エタノールの消毒薬を勧める。外来患者には、熱があったら、なるべく外出は控え、呼吸困難などがあれば一般科の病院に行くようにお願いしている。

現在の精神科病院は、入院から外来に移行途中の患者が多く、入院患者と外来患者が接触、混在する場所が多い。特に1カ所しかない喫煙場に患者が集中する。ここがまさしく感染の温床となる。精神科の患者はなかなか禁煙してもらえない。なんとか早く収束して、安心できる日が来てもらいたいものである。

平川淳一(平川病院院長、東京精神科病院協会会長)[新型コロナウイルス感染症]

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