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Dr.写六最後の事件(前編)[痛み探偵の事件簿(9)]

No.5001 (2020年02月29日発行) P.34

須田万勢 (諏訪中央病院総合診療科/リウマチ膠原病内科,聖路加国際病院リウマチ膠原病センター)

監修: 小林 只 (弘前大学医学部附属病院総合診療部)

登録日: 2020-03-02

最終更新日: 2020-02-26

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〈あらすじ〉ある日,渡村リウマチクリニックに,潰瘍性大腸炎で治療中の42歳女性が左前腕の痛みで紹介受診した。症状は,最初は上腕骨外側上顆炎の関連痛と思われたが,fasciaと経絡によるアプローチにより思いがけない解決を迎えることになる。

今月も私のケースファイルから興味深い左腕痛の症例を紹介しよう。

粉雪が舞う,凍えそうな寒い朝に1人の患者が紹介状を携えて来院した。患者を診る前にざっと紹介状に目を通す。

「平素より大変お世話になります。左前腕痛の患者様をご紹介申し上げます。42歳女性。他院で10年来,潰瘍性大腸炎としてメサラジン(メサラジン®)2250mg/日で治療されており,ときどき腹痛はみられるものの,血便は落ち着いておりました。2~3カ月前からの左前腕の痛みにて当院受診され,局所の圧痛点などから,免疫学的な痛みやfasciaによる痛みも考えられます。つきましては,貴院の治療により本患者様の痛みに対してどの程度改善が得られるものかご教授いただきたく,ご紹介申し上げる次第です。このたびは当方より痛み止め等の内服薬はまだ処方しておりません。
ご多用中恐縮ですが,何卒よろしくお願い申し上げます。 モリアティペインクリニック 院長 盛当●▲

なんとまたもや,Dr盛当からの紹介状,というより挑戦状ではないか!文面から「お手並み拝見」という挑発がにじみ出るようだ。残念なことに,今日は相棒の写六が朝から所用で外出している。私1人で難事件に立ち向かわなくてはいけない日が来てしまったのだ。

そもそも潰瘍性大腸炎は消化器科の領分だが,確かに関節炎を出すことはあり,しばしばリウマチ膠原病科に紹介になる。潰瘍性大腸炎(を含む炎症性腸疾患)に伴う関節炎はtype I,IIに分けられる1)

Type Iは潰瘍性大腸炎の発症早期に関節炎も発症し,潰瘍性大腸炎の疾患活動性に比例した急性の寡関節炎(oligoarthritis:2〜4関節の炎症を指す)を起こす。一方,type IIは疾患活動性と無関係に慢性多関節炎を起こすとされる。本例では潰瘍性大腸炎の疾患活動性は落ち着いていることから,可能性としてはtype IIが考えられる状況である。

さっそく診察してみると,左前腕のあちこちが痛いという。肘関節の触診では腫脹圧痛なく,左上腕骨外側上顆に著明な圧痛あり。またThomsen test〔検者は手首(手関節)を曲げるようにして,患者さんには肘を伸ばしたまま検者の力に抵抗して手首(手関節)を伸ばしてもらう〕2)が陽性であった。ただし本人は上腕骨外側上顆部以外にも自発痛を訴えており,前腕の数箇所にも別の圧痛点を認めた(図1)。病歴と身体所見を患者データにまとめた。

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