株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「外傷が軽症だからといって虐待も軽症とは言えない」山田不二子

No.5000 (2020年02月22日発行) P.51

山田不二子 (認定NPO法人チャイルドファーストジャパン理事長)

登録日: 2020-02-20

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

私は、警察・検察から意見聴取や鑑定の依頼を受けて、たくさんの子どもたちの死に関わってきました。また、地方自治体の依頼で死亡事例検証作業にも携わってきましたので、そこから学んだことを数回に分けて連載します。

2018年3月2日に目黒区で5歳女児が亡くなった目黒事件は、私たちにとてもたくさんのことを教えてくれましたが、その中でも、読者の皆さんに是非、覚えておいていただきたいことは、「被害児が受傷した外傷が重症であれば、身体的虐待が重症だという判断はほぼ正しいが、外傷が軽症だからといって、虐待も軽症とは言えない」という事実です。

たとえば、口と鼻を塞ぐ鼻口閉塞は命に直結する身体的虐待ですが、外傷は何一つ残りません。

目黒事件では、2度にわたって一時保護された際に、被害児に確認された外傷の一つひとつは軽症で、特段の医療を要するものではなかったかもしれません。しかし、2度とも体表外傷が多発していました。1度目の一時保護の時は、食事制限のために暴力を振るわれていたことを強く示唆する口唇・口腔の外傷や、虐待以外では受傷することがまずない耳介の外傷なども認められました。さらに、2度目の一時保護の際には、口唇外傷のほか、腹部を殴られたり、蹴られたりしたことによると推定される皮下出血が腹部に多発していました。このような腹部鈍的外傷は、内臓損傷を引き起こす危険性があり、命に関わる虐待です。たまたま、その時は内臓損傷を来さなかったとしても、繰り返されれば、命の危険を伴います。

2度目の一時保護を解除された後、2017年8月と9月にも被害児には体表外傷が認められ、10月には被害児本人が一時保護を求めました。

たとえ、外傷一つひとつは軽症だったとしても、多発したり、頻発したりするのであれば、加害者の精神病理が深いか、子どもを守る家族機能が不全状態に陥っていることを意味します。にもかかわらず、「本児が受傷した外傷は治療を要さない皮下出血で、軽症だから虐待も軽症」と判断されて、被害児本人から発せられたSOSはかき消されてしまいました。

このような過ちを繰り返してはなりません。虐待による外傷が軽症であっても、それが繰り返される場合や、たとえ1回だけであったとしてもその暴力の態様が危険な行為である場合は、虐待加害者の精神病理は重症と判断しなければならないのです。

山田 不二子(認定NPO法人チャイルドファーストジャパン理事長)[失われたいくつもの命から学ぶ①]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top