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【識者の眼】「高齢者医療・介護財源の『抜け穴』をふさげ」岡本悦司

No.4994 (2020年01月11日発行) P.56

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部長)

登録日: 2020-01-09

最終更新日: 2020-01-07

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戦後生まれの団塊世代が近く後期高齢者になり、高齢者医療や介護費用が急増する。対策として、患者負担割合の引き上げが俎上にあがっているが、高齢者自身の保険料負担はこのままでよいのだろうか? 高齢者の保険料は、年金からの源泉徴収が原則である。高齢者票に敏感な政治家にとって保険料引上げは鬼門なのだろう。確かに、高齢者の多くは年金だけが唯一の収入だが、一方で、金融資産を有し、そこから配当や株の売却益を得ている者も相当いる。問題なのは、わが国の税制においては上場株式や投資信託からの配当所得や特定口座(源泉徴収あり)での売却益は、どんなに巨額であっても申告不要であり、申告しなければ保険料の賦課対象にならないし高額療養費の所得基準にも含まれないことである。税制のこの奇妙な「抜け穴」は、高齢者の医療介護の保険料や患者負担に歪みをもたらしている。こうした金融資産を有するのは富裕層であり、富裕層は金融所得を申告しないことによって保険料負担を免れるとともに、申告所得が少なくなることによって「低」所得者としてのメリット(負担割合、高額療養費など)を享受できる。極端な場合、巨額の金融資産を有するが無年金の高齢者は、実際は高所得であるにもかかわらず住民税非課税世帯として扱われる。

こうした矛盾は、一昨年よりいわゆる「分別申告」が可能となったことでより深刻になった。分別申告とは、国への所得税と市町村への住民税とで異なる申告法をとることで、配当所得等は、所得税では申告して源泉税の還付を受け、住民税では無申告を選択する、という方法。保険料や負担割合は住民税の申告所得で決まり、所得税の申告所得は関係しないからである。

個人金融資産の約3分の2は高齢者に集中しているといわれる。現役世代の負担をこれ以上増やさないためにも、医療や介護については金融所得の申告を義務づける等「抜け穴」をふさぐ制度改正が望まれる。

岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部長)[金融資産]

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