【大建中湯はほてり,のぼせの更年期症状を悪化させる可能性がある】
大建中湯は,「冷えによる腹部膨満,腹痛」から応用されて,現在では術後腸閉塞予防に用いられている。全身麻酔下での手術により医原性の一過性の「冷え」が生じるために,一律に大建中湯を用いることができる。大建中湯による「冷え」の改善については,TRPV1,TRPA1チャネルを活性化することにより,腸管の微小循環の血管拡張・血流増加を促すなど,機序の一端が検証されつつある。また,大建中湯を長期投与することのメリットとして,術後の腸管の癒着防止がある1)。そのため,大建中湯を術後も継続処方する例が多い。
一方,大建中湯をいつまで使用するかについては,まだ明確なガイドラインはない。多くは問題がないが,注意点として,更年期症状であるホットフラッシュに類似した症状を呈する報告がある2)。もともと大建中湯は腹部を中心に「冷え」を改善するものであるために,熱証が生じる可能性があり,その1つひとつが身体の熱感である。術後の器質的変化は「瘀血」(末梢循環不全の結果生じた病理を指す)とされ,伝統的には桂枝茯苓丸加薏苡仁,桂枝茯苓丸,腸癰湯,大黄牡丹皮湯などが用いられてきた。桂枝茯苓丸は大建中湯のようなほてり,のぼせのリスクはなく,むしろ更年期症状のほてりの軽減に用いられている。周術期,術後は大建中湯,中長期には大建中湯から桂枝茯苓丸などに変更していく方法が40〜50歳代女性の場合は検討されてよいのではないか,と考える。
【文献】
1) Tokita Y, et al:J Pharmacol Sci. 2011;115(1): 75-83.
2)糸賀知子, 他:日東洋医誌. 2017;68(2):123-6.
【解説】
田中耕一郎 東邦大学大森病院東洋医学科准教授
糸賀知子 越谷市立病院産科・婦人科副科部長