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免疫活性化作用に注目集まる乳酸菌─感染症への予防効果をどうみるか?【まとめてみました】

No.4967 (2019年07月06日発行) P.8

登録日: 2019-07-04

最終更新日: 2019-07-04

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乳酸菌の免疫活性化作用への注目度が高まり、機能性を強調した新商品が次々と開発されている。しかし、プロバイオティクスの代表である乳酸菌の各種疾患への予防効果は、どこまで科学的に根拠があり、地域医療の現場で患者・家族から乳酸菌摂取の有効性を問われたときに臨床医はどう説明すればいいのか。特に「感染症への予防効果」を特徴として打ち出している乳酸菌について、地域医療の第一線で住民の相談に応じる機会の多い開業医の桑満おさむ氏、プロバイオティクスと感染症学の専門家である神谷茂氏の見解を聞いた。

巷にあふれる根拠不明の健康情報に警鐘を鳴らす活動を続ける五本木クリニック(東京・目黒区)の桑満おさむ院長は、乳酸菌をめぐる玉石混交の情報にも目を光らせる。「乳酸菌が100億個!! どうやって数えてんだ??]「実は乳酸菌っていう医学用語はない」と、自身のブログなどで臨床医としての見解を発信し、一つ一つの情報を冷静に見極めることの大切さを患者・住民に呼びかけている。

そんな桑満氏は、目の前の患者・家族に、免疫賦活作用などをうたった乳酸菌飲料やヨーグルトなどの効果について相談されたらどう答えるのか。

「国民の健康を守るために免許を与えられた地元密着の医師としては、『私の主人、前立腺がんなんですけど、ヨーグルト食べたほうがいいですか』と聞かれたら、過度な期待を持たせないように『ヨーグルトにがんを治す効果はないし、がんを直接治す食品はないんだよ。でも、食べたいものを食べていいんですよ』という言い方をします。患者さんは標準治療に加えて、何かいい食品はないかと“トッピング”を求めてくる場合が多いので、それにどう答えるかはいつも悩ましいところです」

いわゆる乳酸菌は、糖類を分解して乳酸を産生する細菌類の総称。これまでに発見された乳酸菌の種類は約400種類に及ぶとされる。乳酸菌はプロバイオティクス(十分な量を投与された場合、宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物)の代表として整腸作用があることは長く知られてきたが、近年、免疫を活性化する作用に注目が集まり、感染症をはじめ様々な疾患に対する予防効果の研究・検討が各方面で進められ、機能性を強調する新商品が次々と開発されるようになった。

「臨床におけるエビデンスはまだ不十分」

表1は、食品メーカーのウェブサイト等で感染症への予防効果に関する研究結果が公開されている主な乳酸菌を比較したもの。

 

明治の「乳酸菌1073R-1株」は「NK活性増強効果があり、風邪罹患リスクを低減」、雪印メグミルクの「ガセリ菌SP株」は「獲得免疫系と自然免疫系の両方を増強」、キリンの「プラズマ乳酸菌」は「プラズマサイトイド樹状細胞を直接活性化し、風邪・インフルエンザ様症状を軽減」などと作用機序の特徴を掲げている。

いずれもインフルエンザウイルス感染に対する予防効果の研究が行われており、「高齢者で乳酸菌1073R-1株を使用したヨーグルトを摂取した群は対照ヨーグルト群と比較してインフルエンザA型H3N2ウイルスに反応するIgAが有意に多い」「ガセリ菌SP株は、ワクチン接種後のインフルエンザA型H1N1ウイルスや同B型ウイルスに対する抗体価を有意に向上させ、また、ガセリ菌SP株の摂取によりNK細胞活性の変化量が有意に高い値を示した」「プラズマ乳酸菌を摂取したグループは、プラセボグループに比べて『咳・のどの痛み・熱っぽさ』等の風邪・インフルエンザ様症状が有意に軽減し、ヒトの末梢血単核球中免疫細胞の抗ウイルス遺伝子ISG-15の発現量が増加する」など、数々の試験結果が示されている。

これらのデータを医療者はどう受け止めればいいのか。メーカーが発信する情報を厳しくチェックする桑満氏は、興味深いデータはあるものの、「臨床でのエビデンスは、医薬品と比べるとまだ不十分」とみている。

「各メーカーの研究者の熱意には頭の下がる思いがします。しかし、研究はもっと積み重ねて行われるべきです。臨床試験で少し効果があったとしても、何かしら結果を左右する因子があるのであればそれを排除する方向でさらに研究を進めないと、臨床医の評価に堪えるものにはなりません。メーカーが商品化を急ぐのはわかりますが、医薬品も含めてもっと大型の商品につなげていくためにも、じっくり腰を据えて研究してほしいと思います」

桑満氏は、製品化されている乳酸菌のうち、特に「免疫の司令塔の一つプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)を直接活性化することが世界で初めて確認された乳酸菌」とされるプラズマ乳酸菌(図)に以前から注目していた。しかし、そのプラズマ乳酸菌についても「pDCが活性化されることがわかったとしても、それが人体にどう影響を及ぼすかは別の話」と慎重な見方を示している。

「医薬品の場合、ラボのデータで『これはいける』となったものでも、最終的に製品化されるのは数千分の1などといわれます。プラズマ乳酸菌の研究は非常に面白いし興味がありますが、臨床研究の専門家からのアプローチも加えて、さらに研究を積み重ねてほしいと思います」

C.difficile感染症ガイドラインで「弱く推奨」

乳酸菌を含めたプロバイオティクスによる感染症予防については、エビデンスが十分に集積されていないため世界的にはまだ推奨されていないが、日本の医学界の中では少しずつ評価が高まっている。

日本化学療法学会と日本感染症学会が2018年10月に作成したC.difficile感染症診療ガイドライン(表2)では、抗菌薬投与患者におけるC.difficile感染症予防のためのプロバイオティクス製剤の投与について「弱く推奨する」と明記され、話題となった。

プロバイオティクスと感染症学の専門家である神谷茂氏(杏林大保健学部教授・学部長)は、プロバイオティクスの感染症予防効果についてはC.difficile感染症以外にも、ロタウイルス感染症、旅行者下痢症、ヘリコバクター・ピロリ感染症、細菌性腟症などで多くの研究報告がなされているとし、インフルエンザについても「100%有効ということはないが、プロバイオティクスが罹患日数を短縮化させるなどの効果は証明されています」と解説する。

では、専門家として、インフルエンザなど感染症への予防効果について各食品メーカーから出されている乳酸菌研究の成果はどうみているか。

「インフルエンザに対して効果があるかどうかは、乳酸菌を摂取した人と摂取しない人とで発熱や咳の症状、罹患者数がどう違うかを比較するデータが多く、メカニズムの解析までしている場合は少ない。その点、プラズマ乳酸菌は、メカニズムの解析が詳細に行われているのが特徴で、pDCを活性化することが初めて確認されたというのは評価できます。各種インターフェロンの産生を誘導するとの報告もあり、非常に特徴的なプロバイオティクスになるのではないかと思います」

「効果を期待して摂取するのはいいのでは」

桑満氏と同じく神谷氏も、乳酸菌をはじめとするプロバイオティクスによる感染症予防のエビデンスはまだ不十分で、さらなる研究の積み重ねが必要という立場。ただ神谷氏は、インフルエンザ予防や腸管感染症予防のために消費者が効果を期待してプロバイオティクスを摂取することについては「幸いにもプロバイオティクスには副作用がほとんど報告されておらず、一つの姿勢としてはいいのではないか」と肯定的だ。

臨床医が患者・家族に相談された場合への対応については「ヨーグルトに加えて、医薬品として認められているプロバイオティクスや、クオリティが管理されたサプリメントを、整腸や熱帯地方への旅行時の下痢予防などのために服用することを推奨するのがいいのではないか」と語る。

「食品売り場で多く売られているヨーグルトにはトクホ(特定保健用食品)として認められていないものがあります。医薬品として用いられるプロバイオティクスやトクホとして認められているヨーグルト、サプリメントなどは、生体に利益的に作用し、健康増進に役立つ効果が期待されます」

次世代プロバイオティクスにも期待

プロバイオティクスの免疫活性化作用は以前から知られていたが、詳細な研究データが相次いで報告されたことが商品開発競争に拍車をかけている。

これまでプロバイオティクスと言えばラクトバ チルス(Lactobacillus)とビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)の研究が圧倒的に多かった。神谷氏によると、最近、欧米では「次世代プロバイオティクス」「スマートプロバイオティクス」として、肥満症、糖尿病などの慢性疾患の発症を予防する菌種の研究が盛んに行われており、パーキンソン病や認知症など神経変性疾患の発症を予防するプロバイオティクスの研究も進められているという。

「動物実験レベルですが、免疫チェックポイント阻害剤の抗PD-L1抗体にビフィズス菌を併用投与したら、効果が2倍程度に強められたという報告もあり、ビフィズス菌の抗がん作用にも期待が集まっています」(神谷氏)

乳酸菌市場には今後さらに多様な疾患への効果をうたった商品が投入されていく可能性がある。各メーカーが発信する情報を読み解く力が現場の医療関係者にもますます求められていくことになりそうだ。

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