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NASHによる肝硬変の検査と診断上の留意点は?

No.4966 (2019年06月29日発行) P.56

小野正文 (高知大学医学部消化器内科学准教授)

登録日: 2019-06-26

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最近,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)による肝硬変が話題となっています。NASHや薬物性の肝硬変の診断に用いられているM2BP Gi,血清Ⅳ型コラーゲン7S,血清ヒアルロン酸値などのカットオフ値,偽陽性となる病態と検査時の留意点について,主要文献も併せてご教示下さい。

(青森県 W)


【回答】

【肝線維化マーカーや血小板数の測定は有用。肝硬変の原因により線維化進展のカットオフ値が異なることに留意】

慢性肝障害や肝硬変における肝線維化の評価に肝線維化マーカーの測定は有用です。代表的な薬物性肝障害のアミオダロン肝障害による肝線維化判定に,Ⅳ型コラーゲン7Sの測定が有用であったとの報告もありますが,詳細は不明です。また,薬物性の肝硬変や慢性肝炎については使用薬剤により病態が異なっているため,確立されたカットオフ値がありません。このため,本稿においては非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFL D)/NASHについての検査値,カットオフ値について述べたいと思います。

近年,C型慢性肝炎の肝線維化マーカーとして開発されたMac-2 binding protein糖鎖修飾異性体(M2BPGi)は,NAFLD/NASHにおいても肝線維化進展評価において肝線維化マーカーとしての有用性が報告されており1),日常臨床で汎用されています。ただ,NAFLD/NASH肝硬変症例のカットオフ値は1.46COIで,C型肝硬変のカットオフ値(3.0COI)の半分の値であると報告されており,線維化進展のカットオフ値が異なっていることに留意する必要があります2)

血清Ⅳ型コラーゲン7Sについては,F1以下の肝線維化を鑑別するカットオフ値(RIA法)は6ng/mL以下とされており,一般にはC型肝炎のみならず,B型肝炎,NAFLD/NASHなど,どの慢性肝疾患においても同様のカットオフ値が推奨されており,有用性が高いことが示されています。

一方,血清ヒアルロン酸の基準値は50ng/mL以下です。慢性肝炎における血清ヒアルロン酸値の上昇は軽度ですが,肝硬変では著明に上昇することが知られています。ただ,食事や年齢により上昇するだけでなく,血管炎や関節リウマチなどの活動期にも上昇するなど様々な要因に影響されることが知られています。NAFLD/NASHにおいても肝線維化進展に伴って上昇するものの,他の肝線維化マーカーと比べてばらつきが大きく,女性患者は高齢者が多いなど,有用性が高いとは言えないのが現状です。

なお,ご質問中にはありませんでしたが,血小板数も肝線維化マーカーと同様に肝線維化進展度を推測するのに有用であることが知られています。C型慢性肝炎では血小板が10万/μL未満になれば肝硬変の可能性を考慮すべきですが,NAFLD/NASHでは15万/μL未満になれば8割の確率で肝硬変であることを米田ら3)が国内多施設の共同研究による成果として報告しており,NAFLD/NASHの血小板減少がC型肝炎よりも遅いことが指摘されています。

以上のように肝線維化マーカーや血小板は日常一般臨床で簡単に測定可能で,繰り返し測定できることから,いずれの慢性肝疾患診療においても肝線維化マーカーの測定を用いて適切な診療を行って頂くことを願っています。

【文献】

1) Abe M, et al:J Gastroenterol. 2015;50(7):776-84.

2) 是永匡紹, 他:肝臓クリニカルアップデート. 2016; 2(1):85-94.

3) Yoneda M, et al:J Gastroenterol. 2011;46(11): 1300-6.

【回答者】

小野正文 高知大学医学部消化器内科学准教授

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