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低アルブミン血症時のカルシウム補正式の意味は?

No.4960 (2019年05月18日発行) P.49

川崎健治 (千葉大学医学部附属病院 検査部臨床検査技師長)

菅野光俊 (信州大学医学部附属病院臨床検査部技師長)

登録日: 2019-05-17

最終更新日: 2019-05-14

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低アルブミン血症のときにカルシウム(Ca)補正式の成り立つ理由はどのようなものでしょうか。
補正Ca(mg/dL)=実測Ca(mg/dL)+4-血清アルブミン濃度(g/dL)

(高知県 F)


【回答】

【補正Ca値はCa濃度の推算値であり,補正Ca値だけでは低Ca血症と診断できない】

補正Ca値は,ご質問に記載されているPayneの式で算出する方法1)が最も多く使われています。補正Ca値を求める計算式はいくつか報告されていますが,Payneの式は,式の構造がシンプルで計算しやすいため普及していると考えます。補正Ca値はあくまでもCa濃度の推算値であるため,真のCa濃度を表しているとは言えません。Payneの式から求めた補正Ca値は低いのに,臨床症状や実測したイオン化Ca値は問題ないことがあります。Payneの式から求めた補正Ca値が実際の臨床像と合わない理由として,以下の3点が考えられます。

①Payneの式は,血清中のアルブミン濃度とカルシウム濃度の一次直線式で表される相関性を根拠にしている。すべての例を一次直線式で説明するには限界がある。

②母集団がわが国の患者群に合っていない可能性がある。Payneの式を求めた母集団は,英国のある検査室で,外来・入院時に関係なく肝機能検査を行った200例と論文に記載されている。年齢,性別,人種などの母集団の構成要素は明確にされていない。

③Payneらの論文に記載されている分析装置と測定試薬は,現在ほとんどの施設で使われていないため,Caやアルブミンの測定方法間差が影響している可能性がある。

低アルブミン血症のときにCa補正式がどの程度信頼できるかについて,自験例を示します。表1と表2は低アルブミン血症126例でイオン化Ca値,総Ca値,Payneの式から求めた補正Ca値を評価した結果です。加療を必要とする「真の低Ca血症」はイオン化Ca 1.00mmol/L以下としました。補正Caと総Caの基準値下限は8.7mg/dLとしました。

「真の低Ca血症」であった11例は,補正Ca値と総Ca値がどちらも8.7mg/dL未満でした。低アルブミン血症の人の中から「真の低Ca血症」を検出する感度は補正Caと総Caのどちらも100%になり,補正Ca値と総Ca値のどちらかを信じて対処すれば「真の低Ca血症」を見逃すことはないと言えます。しかし,イオン化Ca値が基準範囲内であった115例の中に補正Ca値が8.7mg/dL未満が44例,総Ca値が8.7mg/dL未満が84例含まれていました。これらを偽陽性率で表すと,補正Caでは38%,総Caでは73%でした。

低アルブミン血症の人が「真の低Ca血症」なのかどうかをチェックする方法としては,総Ca値よりも補正Ca値のほうが信頼できると言えますが,補正Ca値だけで低Ca血症と診断すると,そのうち約4割の人は真のCa濃度が基準範囲内になるという結果でした。補正Ca値だけで低Ca血症と診断できないため,臨床症状や実測したイオン化Ca値などの他の検査所見を含めて評価する必要があります。

補正Ca値は,自施設で独自の補正Ca推算式を求める方法が提案されています2)。もし臨床像との乖離が大きいと感じられるようであれば,自施設の臨床検査室と相談されてはいかがでしょうか。

【文献】

1) Payne RB, et al:Br Med J. 1973;4(5893):643-6.

2) 木沢仙次:医学検査. 1996;45(10):1518-22.

【回答者】

川崎健治 千葉大学医学部附属病院 検査部臨床検査技師長

菅野光俊 信州大学医学部附属病院臨床検査部技師長

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