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がんの検査:腫瘍マーカー,コンパニオン診断 [今日の新しい臨床検査─選び方・使い方(11)]

No.4779 (2015年11月28日発行) P.43

監修: 前川真人 (浜松医科大学医学部臨床検査医学教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-02

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  • 1. 腫瘍マーカーとは

    がんが発生すると栄養指標の悪化,各種臓器機能の低下,組織破壊に伴う炎症マーカーの上昇,免疫能の異常など,日常臨床検査にも種々の異常をきたす。すなわち,各人の健常値(個人の検査値は,集団から求める基準範囲よりも狭い範囲で変動している)から外れていくことは何らかの病態によるものと考え,その原因の1つにがんも入れておくことが重要である。CEAやAFP,PSA,CA19-9などの腫瘍マーカーも同様であり,個人でみればほかの日常臨床検査項目と同様に健常時は大きな変動をしていない。したがって,可能ならば定期的に測定し,健常値を知っておくと便利である(残念ながら保険診療適用外)。
    腫瘍マーカーは,「がん細胞がつくる,もしくは非がん細胞ががん細胞に反応してつくる物質のうち,がんの存在,細胞の種類とその量を反映する指標となるもの」と定義される。最近の腫瘍マーカーに画期的なものはなく,感度と特異度を考えるとスクリーニング検査に使用できるものでもない。主にがんの存在診断においては確認や分類に使用できる。そして,客観的な数字で追跡できるため,経過観察や治療の指標として非常に有効と言える。研究レベルでは,血清以外に全血,尿,唾液などを試料として各種オミックス解析で見出されたバイオマーカーが候補として挙げられている。がんにおける遺伝子異常が明らかになり,ドライバー遺伝子として働いている分子に対して作用する,分子標的薬と相対したコンパニオン診断の開発が進んでおり,がんの個別化医療,プレシジョン・メディシンも進化している。

    2. 腫瘍マーカーの異常値

    腫瘍マーカーの異常値について以下に記す。

    1 産生の亢進

    がん細胞の増殖以外にも,炎症性病態などで上昇がみられ偽陽性を示す。喫煙者におけるCEA高値,前立腺肥大や前立腺炎におけるPSA高値などがその代表例である。また,PIVKA-ⅡはビタミンK欠乏時に上昇するため,ワルファリン服用者では高値を示す。

    2 代謝・排泄(クリアランス)の遅延(低下)

    クリアランスの低下,すなわち血中からの消失割合が低下するために,腎不全におけるクレアチニンのごとく上昇する。肝・胆道閉塞性疾患,腎機能不全,貯留嚢胞などで,多くの腫瘍マーカー値は上昇する。

    3 その他

    唾液の混入によってCA19-9が,溶血によってNSEが上昇する。また,マウス蛋白に対する抗体の存在による測定系への干渉などが知られている。さらに,CA19-9のようにルイス酵素や分泌型酵素の遺伝型によって産生量が規定されているものもある。すなわち,腫瘍マーカーはがんでのみ上昇するものではないことを忘れないこと,そうでなければ患者をいたずらに不安にさせたり,過剰診療につながる危険性があることに留意する。

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