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破傷風ワクチン接種に関する日米の違い

No.4923 (2018年09月01日発行) P.61

岡部信彦 (川崎市健康安全研究所所長)

登録日: 2018-09-01

最終更新日: 2018-08-28

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米国のドラマを観ていると,外傷の場合,必ずと言ってよいほど破傷風ワクチンの接種が行われているようです。わが国でそれほど接種されていない理由を。わが国での接種上の注意点も併せてご教示下さい。

(東京都 M)


【回答】

【米国ではACS基準に沿って判断されているが,わが国での警戒度はさほど高くなく問題である】

破傷風は,ワクチンによる免疫がなければ,外傷等により年齢に関係なく誰でも感染発症する可能性があります。そのため,破傷風に対する免疫がない人には積極的に破傷風の予防接種を受けることが勧められます。

国内外において,破傷風ワクチンを含むDPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)三種混合ワクチン,もしくはDPT-IPV(不活化ポリオ)4種混合ワクチンあるいは5種以上の混合ワクチン(国内で承認されているものはない)が普及し,既にこれらのワクチンの接種を受けていれば破傷風ワクチン(正確にはトキソイド)の追加接種は不要になりますが,接種回数が不十分である場合,あるいは最終接種から相当の時が経っているような場合には,ブースター効果を期待して破傷風ワクチンの接種を行うことが勧められます。また,外傷の状況によっては抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)を組み合わせて投与する必要があります。

「米国のドラマで外傷者に必ずと言ってよいほど破傷風ワクチン接種が行われている」かどうか回答者は存じていませんが,米国ではAmerican College of Surgeons(ACS)による破傷風のリスク(表1)1)2),TIGの投与基準(表2)1)2)などが設定されており,おそらくはこれらによって判断が行われていることと思います。

 

国内でも外傷の状況によって,破傷風ワクチンやTIGの接種は行われていますが,かつてほど破傷風に対する警戒が行き届いているようではなく,外傷の診察・治療を行う先生方には「破傷風」に対する注意もして頂ければと思います。

実際に破傷風ワクチンの接種を行う場合,全身性の副反応はきわめて稀ですが,接種回数が多くなると注射部位の疼痛・腫脹などの局所反応が強く現れる傾向があります。DPT未接種あるいは不完全の人については,破傷風単独ワクチンではなくDPTワクチンを使用して頂くと,D(ジフテリア),P(百日咳)への免疫付与ができ,被接種者にとってよりメリットが大きくなります。なお,国内において外傷後の発症予防としての破傷風ワクチンは,健康保険の適用となります。

【文献】

1) 山根一和, 他:IASR. 2002;23(1):4-5. [http://idsc.nih.go.jp/iasr/23/263/dj2632.html]

2) 岡部信彦, 多屋馨子, 監:予防接種に関するQ&A集 2017. 日本ワクチン産業協会, 2017, p78.

【回答者】

岡部信彦 川崎市健康安全研究所所長

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