株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

重症急性前立腺炎に対する抗菌薬をどう選択するか?

No.4921 (2018年08月18日発行) P.63

山本新吾 (兵庫医科大学泌尿器科主任教授)

登録日: 2018-08-18

最終更新日: 2018-08-14

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015─尿路感染症・男性性器感染症」1)2)によると,重症急性前立腺炎治療薬としてセフォチアム(CTM),セフタジジム(CAZ),フロモキセフ(FM OX)が第一選択として記載されています。
(1)起炎菌として大腸菌が多いことを考慮すると,グラム陰性菌に効果が期待できる第3世代セフェム系薬の抗菌薬〔セフトリアキソン(CTRX)〕などが第一選択と考えますが,第2世代セフェム系薬が第一選択とされている理由は何でしょうか。
(2)抗緑膿菌作用を有するCAZが入っているのは,緑膿菌も考慮する必要からでしょうか。
(3)FMOXとセフメタゾール(CMZ)とはほぼ同等のスペクトラムを有していますが,CMZではなくFMOXが選ばれている理由は何でしょうか。

(神奈川県 S)


【回答】

【AMR対策のためにも漫然とした使用は避け,原因菌を考慮して選択すべき】

急性細菌性前立腺炎の原因菌としては大腸菌が65〜87%と最も多く,緑膿菌が3~13%,クラブシエラ属が2~6%,グラム陽性菌が3~5%,その他が9%程度と報告されています。尿中への移行,前立腺組織への移行度が高いという意味ではキノロン系抗菌薬が有利と考えられますが,β-ラクタム系薬でも炎症によって血管透過性が亢進した前立腺には十分に移行することが知られています。本ガイドライン1)2)では,大腸菌を中心にキノロン耐性率が上昇してきていることも考慮し,キノロン系薬ではなくセファロスポリン系薬が第一選択薬として推奨されています。

本ガイドラインの総論では,重症例には「第2・3世代セフェム系薬,βラクタマーゼ阻害薬(β- lactamase inhibitor:BLI)配合広域ペニシリン系薬,ニューキノロン系薬の注射薬を用いる」と記載されていますので,エンピリックに第3世代セファロスポリン系薬を使用してもよいと思います。欧米のガイドライン3)では,急性単純性腎盂腎炎や細菌性前立腺炎にCTRXなどの第3世代セファロスポリン系薬やキノロン系薬が第一選択として推奨されています。

わが国においてはCMZ,CTRXは適応症に膀胱炎,腎盂腎炎はありますが,前立腺炎はありません。FMOX,CTM,CAZはいずれも膀胱炎,腎盂腎炎に加えて前立腺炎(急性症,慢性症)も適応症となっていることが,本ガイドラインで第一選択として推奨されている理由の1つです。

さらに,FMOXは基質拡張型β-ラクタマーゼ(extended spectrum β-lactamase:ESBL)産生菌に,ある程度効果が期待できること,CTMは第3世代セファロスポリン系薬に比べてグラム陽性球菌への効果が期待できることが特徴です。CAZは第3世代セファロスポリン系薬の1つとして推奨されていますが,ご指摘のように緑膿菌の感染が疑われる症例には積極的に使用すべきと考えられます。

タゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)やカルバペネム系抗菌薬も,経験的にESBL産生菌やキノロン耐性菌による急性細菌性前立腺炎に著効することが知られています。これらの抗菌薬は急性細菌性前立腺炎には適応外であり,また現在全世界で警鐘が鳴らされている薬剤耐性(antimicrobial resistance:AMR)対策のためにも,有効だからといって漫然と使用せず,考慮して使用すべきと考えられます。

【文献】

1) 山本新吾, 他:日化療会誌. 2016;64(1):1-30.

2) 山本新吾, 他:感染症誌. 2016;90(1):1-30.

3) European Association of Urology(EAU) guidelines: Urological Infections.
[http://uroweb.org/guideline/urological-infections/#3_7]

【回答者】

山本新吾 兵庫医科大学泌尿器科主任教授

関連記事・論文

関連書籍

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top