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欧州高血圧学会(ESH):欧州高血圧新ガイドラインの内容が明らかに。血圧分類の変更はなし。推奨はより実用的に

登録日: 2018-06-11

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6月9日、バルセロナ(スペイン)で開催中の欧州高血圧学会(ESH)学術集会において、新たな欧州高血圧ガイドラインの内容が明らかになった。高血圧下限値を「130/85mmHg」に引き下げた米国新ガイドラインとは異なり、血圧分類に変更はない。米国ガイドライン公表時の欧州高血圧研究者の反応を考えれば、予想通りの結果と言える。その一方、多数存在する血圧管理不良例をいかに減らすかという現実的な要請から、薬剤治療の思い切った簡略化を含め、数多くの具体的方策が推奨された。“2018 EUROPEAN GUIDELINES”と題打たれたセッションから、概要を紹介したい。なお、ガイドライン正式版の公表は、欧州心臓病学会(ESC)学術集会開催中の8月25日(欧州時間)である。

■血圧分類に変更なし。診療所外血圧評価を格上げ

血圧の分類は、2013年ガイドラインから変更なく、診療所血圧「140/90mmHg以上」が「高血圧」とされた。また「高血圧」は従来と同様に3グレードに分類される。24時間自由行動下血圧(ABP)、家庭血圧による高血圧基準値にも変更はない。

高血圧診断に当たっては、「診療所外血圧」(ABP、または家庭血圧)がより重視されるようになった(前ガイドラインでは診療所血圧が「ゴールドスタンダード」)。すなわち、診療所血圧で「140/90mmHg以上」が確認された場合、これまでは「診療所血圧の再評価」の繰り返しにより「高血圧」と診断するのみだったが、新ガイドラインでは「診療所外血圧評価」の追加によっても「高血圧」と診断できるとされた。さらに、「診療所血圧の再評価」よりも「診療所外血圧評価」の方が適している患者類型も明記されている。

■高血圧スクリーニングの頻度を明記

潜在的な高血圧患者の洗い出しも強化された。すなわち、およそ4分の1が見逃がされているとの認識のもと、高血圧スクリーニング頻度についての新たな推奨が加わった。正常高値「130-139/85-89mmHg」例では、少なくとも年に1回、診療所で血圧を測定する。その際、「仮面高血圧」の可能性があれば、診療所外血圧も測定する。また至適血圧、正常血圧例に対しても、定期的な血圧測定が推奨されている。

■「正常高値」でも高リスクなら降圧薬治療を考慮

降圧薬治療開始の基準も明確化され、「正常高値」「ステージ1~3高血圧」の4分類ごとに、降圧薬開始の基準が示された。

具体的には、「ステージ2、3」高血圧は診断とともに、生活習慣指導と並行して降圧薬を開始する。「ステージ1」高血圧も「高リスク」「超高リスク」「心腎疾患」か「高血圧性臓器合併症」を認める場合は、即時の降圧薬開始が推奨されている。それらに相当しない「低リスク」の「ステージ1高血圧」も、3~6カ月の生活習慣指導で降圧目標が達成できなければ、降圧薬治療を開始する。また正常高値(130-139/85-89mmHg)例も、2013年版ガイドラインと異なり、心血管系疾患(特に冠動脈疾患)を合併し、心血管系リスクが極めて高ければ、降圧薬治療を「考慮」することになった。

■降圧目標は全例「140/90mmHg未満」が原則。「高齢者目標」は消失

上記の基準に従い降圧薬治療を開始した場合、3カ月以内の降圧目標達成を目指す。

その「降圧目標」にも大きな変更があった。第一に、前回ガイドラインで採用された診療所血圧「150-140/90mmHg」という、高齢者向けの降圧目標は削除された。背景にあるのは、「年齢」ではなく個々の身体状況を評価し、可能であれば(忍容性、フレイルなどを考慮)、できるだけ低値を目指すという姿勢である。

その結果、降圧目標は、全例、少なくとも、診療所血圧「140/90mmHg未満」となった。さらに、忍容できるのであれば「130/80mmHg未満」を目指す。ただし拡張期血圧は、安全上の懸念から70mmHg未満まで低下しないよう注意する。これら降圧到達値は、診療所血圧で評価する。なお、降圧目標として「130/80mmHg未満」を推奨する根拠となったエビデンスは、すでに報告されている複数のメタ解析である。米国新ガイドラインと同様、SPRINT試験の結果は反映されていないという。

■降圧薬治療は“Single Pill Combination”による併用療法を推奨

降圧薬治療に関しては、併用療法での治療開始が、単剤と同じ「クラス I」に格上げされた。また併用療法における組み合わせは、前ガイドラインが採用した「ACE阻害薬とARBの併用以外すべて可能」という医師の自由裁量を広く認めるスタンスから、高血圧のタイプに合わせてそれぞれ、第一選択を推奨する形となった。

その結果、合併症のない高血圧、あるいは糖尿病と慢性腎臓病(CKD)合併高血圧に対しては、「レニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS-i)とCa拮抗薬(CCB)、または利尿薬」の併用が第一選択となった。冠動脈疾患合併高血圧に対しては、「RAS-i+β遮断薬、またはCCB」、あるいは「CCB+利尿薬、またはβ遮断薬」、「β遮断薬+利尿薬」が第一選択である。

治療開始時から単剤ではなく併用療法が推奨された背景には、現実問題として、単剤治療開始例の多くは降圧目標を達成できず、にもかかわらず、単剤療法にとどまっているケースがあまりにも多いという認識がある。

さらに併用療法では配合剤(Single Pill Combination:SPC)が、「クラス I」で推奨されている。2剤併用よりも服薬アドヒアランスが向上すると考えられるためである。以上より、降圧薬治療開始の原則はSPCを用いた複数降圧薬の併用であり、単独降圧薬での開始は例外的であると、解説したBryan Williams氏(共同執筆責任者。ESC)は強調した。なお新ガイドラインでは、服薬アドヒアランス評価・対策についても、詳細な推奨が書き込まれている。

■全体として簡略化された印象

本ガイドラインは、ESHとESCによる共同作製である。そのESHサイドの執筆責任者であるGiuseppe Mancia氏はかつて、2013年のガイドライン改訂に向けた学術集会セッションにおいて、当時のガイドラインの細かさに疑念を表明していた。ここまで煩雑になって臨床家が参照してくれるのか、という問いである。そういう意味では、今回のガイドラインには思い切った簡略化がいくつも採用されている。第一選択降圧薬や降圧薬開始時期の明示も、その1つであろう。

近年、米国の循環器領域では、ガイドライン公表・改訂後、転帰がどのように改善されたかチェックする研究が盛んである。欧州研究者が同様の指向性を持つか不明ではあるが、何らかの形での検証を待ちたい。

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