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【識者の眼】「ウェルネスシフト①─慢性炎症という『万病の根』」渋谷健司

登録日: 2026.11.06 最終更新日: 2026.11.06

渋谷健司 (一般社団法人Medical Excellence JAPAN理事長)

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産業化が医療供給体制の持続可能性を支え、国際化が医療インバウンドを成長エンジンへ変える。しかし、それだけでは日本医療の再生は完結しない。さらに、根本的な問い、「何のための医療か」が残されている。

20世紀型医療の中心は、病気を発見し、治療する「疾病(illness)モデル」だった。このモデルは、感染症や外傷への対応で大きな成果を上げたが、慢性疾患が中心となった21世紀では、治療だけでなく予防の重要性が増している。高血圧、糖尿病、認知症など、長期的な管理や支援を必要とする疾患も多い。医療財政の危機は、単なる財源不足ではなく、病気になってから対応する医療モデルの限界とも関係している。

そこで必要になるのが、「ウェルネス(wellness)モデル」への転換だ。医療の目的を「病気を治すこと」から「活力ある人生を実現すること」へと広げ、未病段階から心身の健康を支え、健康寿命を延ばす。自らの健康を主体的にデザインする発想であり、心身全体の調和を重視する東洋医学とも通じるものがある。

インドの伝統医学アーユルヴェーダは、3つの「ドーシャ(生命エネルギー)」のバランスを健康の指標とし、「アーマ(毒素)」という概念も用いて病気の成り立ちを説明してきた。中医学の「気の滞り」や日本漢方の「証」に基づく治療も、個人の状態を総合的にとらえる。これらを現代医学の慢性炎症や免疫異常と同一視することはできないが、個人差や生活背景を重視する姿勢には共通点がある。

近年、慢性炎症が、心血管疾患、糖尿病、一部のがん、神経変性疾患など、多くの慢性疾患の発症や進行に関与することが明らかになってきた。異なる病気の背景に共通する病態が潜んでいる可能性があるのだ。慢性炎症は、まさに「万病の根」とも言うべき、現代医療が向き合うべき重要なテーマである。GLP-1受容体作動薬による心血管疾患リスク低減や、帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低下との関連を示す研究も、炎症や免疫と全身の健康を考える上で注目される。ただし、これらの効果や関連性は対象や条件によって異なり、慎重な検証が必要だ。

この流れの中で注目されるのが、機能性医学(functional medicine)である。米国のInstitute for Functional Medicineが体系化したこのアプローチは、食事、睡眠、ストレス、腸内環境、遺伝的要因などを総合的に評価し、病気の背景にある要因を探る。東洋医学と現代科学を橋渡しする可能性を持つ一方、有効性は個々の介入について科学的根拠に基づいて評価する必要がある。

予防医療は、経済面でも重要な意味を持つ。山形県酒田市の日吉歯科診療所は、予防を重視した歯科医療の実践例として知られる。疾病を減らし、重症化を防ぐことができれば、患者の負担軽減と医療費の抑制につながる可能性がある。予防は理念にとどまらず、医療の持続可能性を高める投資なのである。

日本が次世代医療国家として再生するためには、「病気を治す医療」に加え、「健康を創る医療」へと軸足を移さなければならない。産業化と国際化に加え、このウェルネスモデルへのシフトこそが、日本医療を持続可能な成長モデルへ転換する第三の鍵となる。

渋谷健司(一般社団法人Medical Excellence JAPAN理事長)[ウェルネス][慢性炎症][予防医療]

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