幼児の外出時に用いる紐付きの補助具(いわゆるハーネス)の使用には、様々な意見がある。突然の飛び出しを防ぐことができるという事故予防効果を評価する声がある一方、転倒の原因になったり、行動制限が発達に影響したりするのではないかという懸念もある。しかし、こうした効果や影響を直接検証した研究はほとんどなく、学会も公式声明を出していない。そこで本稿では、間接的な研究をふまえ、小児科医の立場からこの課題を考えたい。
幼児や児童の交通事故では、歩行中の事故が65%を占め、特に幼児では1人歩きや飛び出しが原因として多いことがわかっている。また、10歳以下の子どもの母親を対象としたオンライン調査では、迷子を経験した割合は1歳で4.3%、2歳で10.6%と上昇し、5歳までほぼ10%で推移した後、6歳では1.9%に低下したと報告されている1)。同調査では、1〜2歳では親が目を離したすきに、3〜5歳では子どもが周囲に気を取られて親子の距離が開き、迷子になるパターンが示されている。こうした年齢の子どもの飛び出しや迷子を防ぐ上で、ハーネスが役立つ可能性があるという考え方は合理的である。
一方、「目を離さなければよいのでは」という意見もある。しかし、子育てにおいて、子どもから目を離す時間をゼロにすることは現実的に難しい。注意していても、衝動的に走り出す子どもの行動を制止することは容易ではない。万が一に備えて安全対策を講じたい保護者の気持ちは十分に理解できる。特に、自閉スペクトラム症(ASD)の子ども1218例を対象とした保護者調査では、49%が4歳以降に離走を試み、26%が保護者が心配するほどの時間、行方不明となった経験があると報告された。行方不明となった子どものうち、65%が交通事故の、24%が溺水の危険にさらされていた2)。安全を確保することは、保護者の子育てに伴う不安や負担の軽減にもつながる可能性がある。
これに対し、「犬の散歩のようだ」という批判もある。海外でも同様の議論が繰り返されており、日本に限った問題ではない。同じ器具でも、「逃げ出すのを止める拘束」と見るか、「安全に自分で歩くための補助」ととらえるかによって、評価は変わる。保護者が後者の考えで使用しているのであれば、安全を考えた行動として前向きにとらえてよいのではないか。子どもの特性や、過去の飛び出しで危険な思いをした経験など、それぞれの家庭の事情は外からは見えにくい。第三者が安易に論評すべきではないだろう。なお、英国では、交通ルール集(Highway Code)に、幼い子どもを連れて外出する際は子どもと車道の間に立ち、手をしっかり握ることや、ごく幼い子どもにはベビーカーのベルトやハーネス(reins)を用いることが記されている。
最後に、ハーネス使用時の注意点をまとめたい。第一に、ハーネスはあくまでも飛び出しを防ぐための補助具である。最も大切なのは見守りや手つなぎ、大人が道路側に立つといった配慮であり、ハーネスを使うことでこれらを省略してよいわけではない。第二に、とっさに紐を強く引くと、子どもが後方に転倒して後頭部を打つ恐れがある。また、腕に装着するタイプでは、強く引っ張ることで肘内障の原因になる可能性もある(手を引っ張る場合も同様)。第三に、紐が首に絡まると窒息の危険があるため、使用しないときは外して、子どもの手が届かない場所に保管する。また、自動ドアやエスカレーターでの巻き込みに注意し、遊具で遊ぶ際は必ず外す。第四に、子どもの体格にあったサイズを選び、安全性に関する表示や製品の使用方法を確認する。
ハーネスを卒業する時期に一律の基準はない。3〜5歳頃からは、子どもの理解力や発達に合わせて交通ルールを教え、ハーネスに頼らない方法へ徐々に移行していくことが望ましい。我々医師には、ハーネスの使用を一律に否定するのではなく、それぞれの家庭の事情に寄り添い、安全な使い方を助言するという役割がある。
【文献】
1) 小島康生:こども環境学研究. 2023;19(2):78-85.
2) Anderson C, et al:Pediatrics. 2012;130(5):870-7.
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[子どもハーネス][飛び出し][事故予防]