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【識者の眼】「日本学術会議『生活習慣病対策の再構築に関する提言』」八谷 寛

登録日: 2026.11.05 最終更新日: 2026.11.05

八谷 寛 (名古屋大学大学院医学系研究科国際保健医療学・公衆衛生学分野教授)

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日本学術会議は、2026年10月に特殊法人へ移行した。その直前の9月18日、生活習慣病対策分科会を中心とした審議を経て、『生活習慣病対策の再構築に関する提言─ライフコースを通じた包括的な対策に資する、多職種連携と統合データ基盤の確立─』を公表した。筆者は同分科会の幹事として、特任連携会員の水野 篤氏らとともに提言の作成に携わった。提言の柱は、生活習慣病という用語の再考、多職種連携、データ連携の3つである。

第一の柱は「生活習慣病」という用語の問題である。この用語は1996年に厚生省(当時)が行政上の概念として導入した。その後、学習指導要領の改訂や教科書への採用を経て、学校教育を通じて広く定着した。生活習慣の改善による疾病予防を進める上で、大きな役割を果たしてきたと言える。その一方で、「病気になったのは本人の生活習慣が悪かったからだ」という単純な見方を生みやすい。医療費をめぐる議論とも結びつき、患者への偏見や差別につながったとの指摘もある。この「識者の眼」でも、この問題は繰り返し取り上げられてきた(No.5243、No.5277)。

実際には、疾病の発症には生活習慣だけでなく、遺伝や生活環境、収入、仕事などの社会経済的条件も関わる。また、生活習慣そのものも、こうした条件に左右される。習慣がどのように身につき、どう変わるのかを考えるには、医学にとどまらず、哲学を含め、人間への深い理解も必要である。生活習慣が大切であることに変わりはない。ただ、個人の努力だけに頼るのではなく、誰もが健康に暮らしやすい社会環境づくりを、さらに進めることが求められる。用語についても、スティグマへの配慮にとどまらず、より効果的な健康づくりや疾病対策につながるか、という観点から議論すべきである。提言では、生活習慣病を予防の対象としてだけではなく、「生涯にわたり共生すべき健康課題」と位置づけた。疾病を抱えながら生活する人を支える視点も重要だからである。

第二、第三の柱は、多職種連携とデータ連携である。現在の保健制度は、母子保健、学校保健、職域保健、地域保健など、年齢や担当省庁ごとにわかれている。そのため、進学や就職などのライフステージの移行期、転居や転職などのライフイベントの際に、支援が途切れやすい。提言は、省庁を越えた支援体制への転換、医療・地域・職域・学校の多職種が協力できる仕組みの整備、そして、それを支える専門職の養成教育を求めた。さらに、健診や医療の情報を、制度や職種を越えて本人とも共有することができる統合データ基盤の構築を提案している。

提言は、発出後の実装こそが重要である。筆者が委員長を務めた第24期の提言の発出後には、医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂に向けて意見を提出するなど、実現に向けた働きかけを行った。本提言についても、まずは行政において継続的に議論する場が設けられることを願っている。

八谷 寛(名古屋大学大学院医学系研究科国際保健医療学・公衆衛生学分野教授)[生活習慣病][多職種連携][統合データ基盤]

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