腰背部痛は日常診療で頻繁に遭遇する症状であり,その多くは明らかな原因を特定できない非特異的筋骨格系疼痛である。一方で,頻度は低いものの,大動脈疾患,急性膵炎,脊髄・馬尾障害,脊椎骨折など,見逃した場合には重篤な転帰につながる疾患が含まれる。診療では,まず緊急性の高い病態を除外し,その後に非特異的筋骨格系疼痛への対応を考えることが重要である。突然発症した痛み,循環不全を伴う痛み,神経症状を伴う痛み,外傷後の痛みでは,頻度だけで判断してはいけない。危険疾患が否定的で非特異的筋骨格系疼痛と判断した場合には,患者背景を考慮した疼痛管理を行う。
▶病歴聴取のポイント
最も重要なのは発症様式である。突然発症した痛みや,発症時に最大の痛みを感じた場合には,急性大動脈症候群などの血管性疾患を考慮する。特に冷汗,胸痛,失神,呼吸困難,腹痛を伴う場合には,急性大動脈症候群(急性大動脈解離など)や大動脈瘤破裂といった重篤疾患を疑う。
痛みの部位だけで原因を判断しないことも重要である。大動脈解離では背部痛のみを呈することがあり,急性膵炎などの腹腔内疾患でも背部への放散痛を認める。脊椎・脊髄疾患では神経症状の確認が不可欠である。下肢筋力低下,感覚障害,排尿困難,尿閉,便失禁,会陰部(サドル領域)の感覚低下などを認める場合には,馬尾症候群や脊髄圧迫を疑う。
また,高齢者,骨粗鬆症患者,ステロイド使用者では,軽微な外傷でも椎体圧迫骨折を生じるため,転倒などの外傷歴だけでなく,疼痛の発症状況を確認する。
▶バイタルサイン・身体診察のポイント
腰背部痛では,疼痛部位だけでなく全身状態を評価する。低血圧,頻脈,意識障害,低酸素血症,冷汗などを認める場合には,非特異的腰痛として扱わず,緊急疾患を想定して評価する。身体診察では,胸部,腹部,背部を含めた全身観察,心音・呼吸音の確認,腹部圧痛や腹部大動脈の拍動性腫瘤の確認,脊椎の圧痛・叩打痛,下肢筋力・感覚・反射の評価を行う。背部痛であっても,大動脈疾患や心疾患,腹腔内疾患が原因となることがあるため,胸部・腹部診察を省略しない。
